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Last updated: 2010.11.28
ここでは,温暖化問題に関する各種話題を,わたしなりの視点で斬ってみようとします. 実際は,(株) ナットソース・ジャパン の 月刊情報誌 Natsource Japan Letter に掲載している「Dr. 松尾の CO2 ゼミナール」を, (株) ナットソース・ジャパンのご好意により,直前の号までの分を,Climate Experts の Web においても,公開できることとなりました.「CO2 ゼミナール」以外のものに関しても, 適宜,掲載できれば...と思っています.
掲載の古いものを下に置いています.
日本の企業で,CDM プロジェクトを行いたいが,いま,どのような行動をとってよいか,悩んでいる企業は多いでしょう. ここでは,そのような企業にとって,役に立つ「考え方」をご紹介いたしましょう.
まず,現段階では,CDM クレジット (CERs) を獲得したからといって,日本政府が買い上げてくれたり,国内排出権取引制度 などで使えるかどうか,はっきりしたことは決まっていません(わたしは必ず使えるようになると思っていますが...). ということは,いま,プロジェクトを行うことには,そのような 将来の日本制度の不透明性に起因する「リスク」があるのでしょうか?
わたしは,それには「否」とお答えします.たとえ,日本の制度がどうなろうとも,国際的には CDM の市場は確実に できるわけですから,使えなければ,市場で売却すればいいわけです.むしろ,早期に経験を積み,ビジネス機会を 競争相手より早く確保しておくことこそ重要でしょう.
あるひとが,むかし PC が 100万円した時代に,その高い PC を購入したというケースを考えましょう. この人の行為は,愚かだったのでしょうか?もし,その人が,誰も購入しなかった PC のノウハウをいち早く 会得し,安価になって皆が購入する段階ではすでにその道の専門家となって どんどん新たなビジネスを興した としたら,それはまさに「先見の明」というに値する決断だったといえるでしょうね.
その意味で,いま,CDM の経験を(たとえ少々高価な場合にでも)積んでおくということは,戦略的な 観点から,十分に正当化されると思います.少なくとも CDM などの市場は,今後どんどん発展することは 間違いないわけですから.
では,実際にはどのようにすればよいでしょうか? たとえば
といった行動が考えられます.
現段階の重要課題は,安価な大量のクレジットを獲得することではなく,CDM のノウハウを獲得することですから, カーボンファンドに投資するだけではだめで,自らがプロジェクトを実施する時にそなえ, 知見を十分に吸収することが重要です.
実際,プロジェクトを実施してみることが,経験を蓄積する上では重要でしょうが,ここでは,より安価な方法を ご紹介しましょう.それは,「プロジェクトデザインドキュメント (PDD) を書いてみる」ことです.いきなり書くのは 難しいでしょうから,既存のプロジェクトデザインドキュメントを教科書にして,勉強してみるという手があります.
さいわい,PCF と CERUPT/ERUPT は, 多くのプロジェクトの関連資料を公開しています.また,Operational Entity 有力候補の DNV, KPMG, TÜV, SGS や フィンランド政府 も, パブリックコメントを受け付けるため,Web 上に.PDD をオープンにしたり,さまざまな有用な情報を置いています.. みなさん,ぜひ,これらの既存の知見を最大限に生かし, 温暖化規制をむしろ自らの新しいビジネス機会としてください(もっとも全部ダウンロードすると 100 MB 以上に 及びますが...).
なお,2002 年 8月 29 日に,CDM の プロジェクトデザインドキュメント (PDD) のフォームが 公開されました (条約事務局の CDM のサイト). CDM を考えておられる企業の方は,さっそくダウンロードして,どのようなものか ご検討下さい. なお,PDD のフォームは各国連の公用語バージョンが出ていますが,最終的には「英語」で書く必要がありますので あしからず.
※ この色で記された部分は,追加された部分です.
マラケシュアコードにおいては,GHG ユニットの移転に関して,京都メカニズム部分以外に,7 条 4 項部分で 取り扱っています.しかしながら,できあがったものをよく読んでみても,必ずしも明確に定義されたものばかりでは ありません.ここでは,これらの 「曖昧な」 部分に関して,図にまとめてみました.
これらの 「曖昧な点」 は,交渉担当者,事務局の人 などによっても,解釈が 必ずしも一致しないものです.
いずれ,COP において 明確化することが 必要かと思われますが,現状では どうなるか はっきりしていません. このままでは,ある意味で 勝手な解釈の下,「運用」されていくと思われます. ただ,transaction log の 詳細設計段階においては,明確化させることが求められますので, あとで「そんなはずではなかった」ということのないように,交渉担当の方々には,お願いしたいものです.
この図は,PDF ファイル (92 kB) もあります. 印刷にはこちらをお使い下さい.
関連する事項として,世銀の PCF においては,CERs などに関して,
PDD には,プロジェクト参加者として, ホスト国側は すべての関係者,出資側は PCF が代表となり,PDD の中に 出資国・企業の名前は出ないそうです.また,PCF が コンタクト先にもなります. 出資国側の承認は,PCF の解釈では,まだ CDM 理事会がはっきりとした 解答を持っていないということで,とりあえず,出資国側の一か国の 承認で十分,あるいは,PCF によるブランケット承認で十分 (blanket approval in the PCF Instrument) という仮定の下で,進めているということのようです. CDM クレジットは,CDM レジストリーの テンポラリーアカウントから 直接,PCF への出資者の口座に振り込まれるようです(ここまで CDM の扱い). PCF 自身は,クレジットを所有しません. OE への申請は,PCF が 行うという形となります. また,世銀は 米国企業という扱いではありません. |
ということだそうです.
というような見解を,以前,記しましたが,CDM が動いてくる中,発展途上国の人々が,CERs を獲得・転売 できるかどうかは,差し迫った問題となってきました.実際,CDM の方法論承認プロセスにおいては, すでに 途上国参加者のみで実施する「ユニラテラル CDM」プロジェクトが 提案されています (例: NM 0001).
そこで,外国の何人かの専門家のあいだで,E-mail で意見交換を行い,今回,もうすこし踏み込んだ結論 (といっても「個人的」なものですが) を得ました.条約事務局の担当者にも声を掛けたのですが,なぜか 音沙汰なしです.返事があったら,また 紹介致しましょう.
現時点でのわたしの持っている結論としては ...
【 発展途上国 (non-Annex I 国) の企業などが,CERs などの GHG ユニットを獲得することや,二次的に転売することは可能 】
懸念としては,CERs の二次的転売などが 排出権取引 (第 17 条の活動) に分類され,non-Annex I 国には, 参加可能条件が指定されていないから参加できない,となることです (マラケシュアコードでは,許可も禁止もされていません).
今回,わたしが上記のような結論に達したのは,マラケシュアコードの Appendix D (CDM Registry requirements) において,
1. The executive board shall establish and maintain a CDM registry to ensure the accurate accounting of the issuance, holding, transfer and acquisition of CERs by Parties not included in Annex I. The executive board shall identify a registry administrator to maintain the registry under its authority.
というのを重視できるのじゃないか,と思うようになったからです.すなわち,non-Annex I 国(の企業)が, CER などを 獲得したり移転することが,ここに明確に指定されています (ただし,これが 第 17 条の活動に 分類されるかどうかは,よくわかりません.2008 年以前に可能かどうかも,不透明です).
なお,CERs を,最初にどのようにプロジェクト参加者に分配するか?という点は,CDM として登録される時点で プロジェクト参加者が指定することになります (第 9 回 CDM 理事会会合報告).ここで,プロジェクト参加者以外に (最初から) 分配することができるかどうかは,現時点では定かではありません.
また,non-Annex I 国自身ではなく,その中の「企業」が CDM Registry の中にアカウントを持つことは, おそらく問題なくできます (もちろんその国が議定書を批准する必要はあります).これは,マラケシュアコードには 規定されていませんが,当時の,交渉担当者,条約事務局の人,専門家など,すべて YES という見解でした. もっとも,どのような企業でも OK かどうかは,現時点では分かりません.
最後に,Annex I 国の ひとつの Registry 内の アカウント間移転は,議定書では排出権取引 (第 17 条の活動) には 分類されません.ただ,このような国内取引の結果,どのアカウントからどのアカウントへ どの GHG ユニットが移転された? という情報は,transaction log としては,把握しておく必要があるでしょう.
マラケシュアコードにおいて,この重要な点が不明瞭な理由は,この点で合意を得ることが その当時 交渉上むつかしく, 意図的にあいまいにしたまま残し,あとで なしくずしてきに OK とする... ということだったかもしれない, という意見もありました.
この件に関して,ご質問やご意見のある方は,お寄せ下さい.
という次第だったのですが,その後,ある経済産業省の方と この件に関して話をする機会がありました. 彼の話では,日本政府は non-Annex I 国が CERs を二次的に販売することに関しては,国際交渉においては 断固 反対する, ということでした.その理由は,そのようなメリットがあると,non-Annex I 国が (現状でも 排出権取引のメリットを享受 できるため) 目標値を受け入れることを阻害する... というものでした.METI としては, 国内ステークホルダーに対して,CDM プロジェクトから生成される CERs は,全量 入手するように勧めているという お話でした.
どうであるべき,どうなってほしい,どういう認識がなされている... などは,それぞれ 人によっても異なっているようです.
近年,排出権などのマーケットに関するワークショップなどが,各地で開催されています. COP の場におけるサイドイベントなどでも,興味深いプレゼンテーションが多々あります. たとえば,今年の 5月にニューヨークで開催された Green Tarding Summit などは, この報告 (735 kB) のようなものでした.
欧米で行われることが多いので,旅費や時間の問題などから,なかなか参加することができないのが現状でしょう. また,参加した場合でも「情報収集」に終わって,プレゼンテーション,積極的な質問・発言, ビジネス機会の探索 などに 結びついていくような活用をしているところは 少ないのではないでしょうか?
日本企業の(あるいは日本人全体の)性質として,自分たちの価値判断の範疇でしか物事を考えられない, という傾向があります.自分たちのコミュニティーの「ぬるま湯」から抜け出そうという傾向が少ないのは 事実でしょう. 排出権などのマーケット情報に関しては,その情報の豊富さ,新たな活用にあたっての考え方 に関しては, 残念ながら,日本は遅れていると言わざるを得ません.
その意味でも,各種の国際ワークショップなどに「積極的に参加」されることをお勧めします. ぜひ,いろんな「カルチャーショック」を体験してください.
もちろん,会合でのプレゼンや議論などが,自分の考えている範疇におさまったり,自分の考えの方が 進んでいた場合などは,それでいいのですが(その事実把握も重要です),もし,自分の考えと大きく異なる ものが,その場で話されていたならば,その「驚き」を分析することが重要です.
もちろん,自分の考えの方に妥当性がある ということであれば それでいいのですが,異なったメンタリティー下の 考えや行動パターンからは,何らかの得るものがあるはずです.
会議参加者は,単なる出張報告だけではなく,そのあたりの客観的分析を伝える義務があるでしょう. 場合によっては,非常に大きなビジネス機会 あるいは ビジネス上のリスク回避の「ヒント」が隠されているかもしれませんね.