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Last updated: 2008.01.02

COP 13/CMP 3の結果をどう読むべきか?

日本国内報道との差異

バリ会議[気候変動枠組条約の第13回締約国会議COP 13と京都議定書の第3回締約国会合CMP 3]が終わりました.ここでは,その結果をどう解釈すればよいのか?という点に関して,すこし考えてみましょう.

日本で新聞やTV報道などをごらんになっていた人は,どうみられたでしょうか?バリ会議がはじまる前の「雰囲気」として,わたしの感じた日本人の一般的認識は

 (a) 京都議定書は2012年末で失効する;

 (b) 2012年以降の京都議定書がもはやなくなった後の新しい枠組みに関してバリで交渉される;

 (c) そこでは,先進国も発展途上国も参加する;

 (d) そして,そこでは先進国も含めて,京都議定書のキャップ・アンド・トレード方式とは異なるセクター別に原単位などの目標設定がなされる可能性がある;

 (e) そこでは,日本の排出可能水準は,実質的に2012年までの制度より緩くなる,

というようなものでした.

わたしが,バリで話しかけられたメディアの方々に言ったことは,「バリに来ているのですから,自分の目で見たことを報道してください」でした.日本の中でしか通用しない話ではなく,世界で何が行われ,どのようなことが関心を持たれ,何が議論されているか?を,ちゃんと報道してください,ということですね(サイドイベントもその意味では重要です).

日本政府からの情報収集がメインで,いまだに「ポスト京都」という言葉を使っているところをみると,どこまで学習していただいたかは,やや怪しいかもしれません...

[「ポスト京都」という言葉が,海外で使われているということはありません.日本で「だけ」使われているといえるでしょう.京都議定書は,2013年以降も継続されることは,京都議定書の条文を読んでも,現在動いているAWGの交渉プロセスをみても,「明らか」です.「日本は京都議定書を葬り去ろうとしている」として,日本がFossil of the Dayの汚名をトップ3独占した日があったことは,日本国内でも報道されていたようですが,そのあたりにも原因があるかもしれません.勉強不足でその表現を用いるならそれはそれで問題ですし,「意図を持って」使っているなら,さらに問題ですね.]

2012年以降の方向性について(バリ・ロードマップ)

バリ会議の最大の成果は,「バリ・ロードマップ」の策定でしょう.これは,あと2年間の交渉プロセスの末,2009年末のコペンハーゲン会議において,2012年以降の国際的枠組みがどのようになるか決定されるというものです.

先進国に対する枠組み

まず,京都議定書はどうなるのでしょうか?なぜかこの交渉の結果が,きちんとと報道されていないようにも感じますがいかがでしょう?日本にとってはこちらが重要でしょう(途上国の問題と統合して議論されるという「思いこみ(?)」によるものでしょうか?).

京都議定書は継続され(これは議定書が採択されたときから決まっています),現在進行形の先進国の次期目標に関するAWGという交渉プロセスを2009年末に終える=日本を含めた先進国の第2期(2013年から)の数値目標が決定されることとなりました.

これは議定書の「本体」の改正の問題ではないため,絶対排出量に対する規制が継続されるという前提の交渉となります.

[ただ,基準年水準比という表現となるかどうかは別ですし,設定クライテリアがどうなるか(あるいはできるか)という問題も別です.期間も5年間となるかどうかは,今後の交渉次第です.]

この議定書の中に中国などの発展途上国まで入れた枠組みにするという可能性はありません.CMP 4における議定書の見直しは,そこまで広くないということになりました(一方で,韓国などが自主的に入ってくるということは可能となるでしょう(交渉中のロシア提案,ベラルーシの実績あり)).

日本は(国会が改正議定書にNoと言わなければ),2012年以降も,この京都議定書の下に入るでしょう.

交渉の進め方は,まず「Annex I全体の排出水準」に合意し,それから各国の負荷分担の交渉となります.いま,IPCCのポテンシャルの数字1990年比25-40%削減 という「数字」のみがリファーされる状況ですので,かなり厳しい水準 から交渉が開始される可能性は高いでしょう.

[この数字はindicativeなものであるにもかかわらず,それが「数値目標」として日本では報道されていました.]

[国際交渉では,いままでは「基準年」比という表現で交渉がなされ,マイナス6%, 7%, 8%というようないわば「みかけ」の数字が一人歩きしていたわけです.第2期は「絶対排出量(t CO2e/年)」を単位とした目標とすることもできます.ただし,原単位のままの目標値やセクター別の目標は,京都議定書とは相容れず,ありえません.]

(さいわい?)排出権の需給をみてみると,圧倒的に供給側が多い状況 です.これをどう活用するか?という点は,日本も戦略が必要ですね.

[ホットエアーを除くCERだけでも,不足する先進国(日本とカナダ)の分を補えます.したがって,日本が目標達成できるかどうか?という点は,日本がその分のCERなどをどのように調達するか?という命題でしかないのです.なお,余るということと,価格が低迷/暴落するということとは,単純にリンクしませんのであしからず.]

発展途上国に対する枠組み

一方で,発展途上国や議定書未批准先進国を含んだ新しい枠組みに関しても,新しいAWGが「気候変動枠組条約の下で」発足し,2009年末までに結果を出すこととなりました.これは上述の京都議定書のAWGとパラレルで交渉されます.言い換えると,統合化が否定されました.すなわち,議定書の附属書I国は,議定書で規制されることになるわけです(その数値目標交渉の場が上述のすでに動いているAWGです).

排出削減活動をあらわすmitigationに関しては,先進国が数値目標の深掘りを求めるのに対し,発展途上国にも メmeasurable, reportable and verifiable mannerモという表現が入りました.これは数値目標とは限りませんが,明らかにいままでより「踏み込んだ」ものが想定されていると言えるでしょう.

また,発展途上国にとって,mitigation以外に,adaptation(適応措置), 技術移転なども重要です.これらに関しても,それをファシリテートすることが記述されました.

2009年末に何が決定されるであろうか?

さてそれでは,2009年末のコペンハーゲンにおいて何が決定されるのでしょう?

まず,議定書の下での先進国の各国の2013年以降の数値目標が決定されます.京都を失敗だと思っている某国は,がんばらなければならないわけですが,洞爺湖サミットでのリーダーシップとどう折り合いを付けるかが腕の見せ所でしょうか.いろいろなアイデアが考えられます.

一方で,もうひとつの新しいAWGは,どんな結論が期待されているのでしょうか?おそらく,発展途上国向けの「気候変動枠組条約下の」新しい国際協定(条約の改正という可能性もあり)の制定が決定されるのではないかと思います.タイムフレームまで決まるかもしれません.

気になるのは,米国ですね.新大統領は誰がなるにせよ,いまのブッシュ政権とはかなり異なった政策をとるでしょう.民主党がとる場合,ゴア氏が付いた候補が勝つ可能性が高いでしょう.言い換えると,ゴア氏が米国の温暖化政策の中心に位置する可能性は高いと想像されます.

振り替えると,京都議定書で「市場」を,規制枠組みに持ち込んだのは,ほかならぬ米国自身です(EUではありません!).就任後一年以内ですのでどうなるかはわかりませんが,豪州のような極端な例もありますので,目が離せないでしょう.ダイアローグに数値目標が明示されましたので,たとえ京都議定書の枠外に留まっても,何らかの国としての(絶対量に対する)数値目標は導入することになると想定されます.少なくとも,国内では連邦レベルでETS(排出権取引制度)を策定する可能性は高いでしょうね.

その他の注目点

CDM関連

最後に,CDMに関する点で二点挙げておきます.

ひとつは,貧しい国や地域のプロジェクトがやりやすくなったことです.非再生可能バイオマスのプロジェクトが,CDMの適格性を認められました.サイドイベントでも,プログラムCDMへの期待があちこちで発表されていました.小規模植林CDMの閾値も2倍に拡大されました.この種の真に持続可能な発展に資するプロジェクトが多く実現していくといいですね.

それから,CERの2%分を用いる適応資金ファンドが立ち上がります.メンバーの選定がなされましたが,ビューロクラティックな組織と成らず,実効性のある対策を実施してもらいたいものです.

IPCCの結果のリファー

今年,ゴア氏とともにノーベル平和賞を獲得したIPCCは,その第4次評価報告書において,濃度安定化シナリオの中で,「2050年にグローバルで半減」,「あと10-15年で排出を減少傾向にする必要性」,「先進国が2020年に25-40%削減する」というようなシナリオを提示しました(それが望ましいと判断したわけではありません.それはUNFCCC側の仕事です).また,その達成できる手段は,すでに(もしくは近い将来に)商業的なものとして利用可能であることを示しています.

今回,AWGの文書ではあらわな形でその重要性が明示されましたし,ダイアローグの方では ページがリファーされ,メdeep cutモの必要性と問題の喫緊性が言及されました.

おそらく今後の交渉では,この数字をベースに交渉が動いてくるでしょう.(日本が)緩い目標を掲げるということはできないと断言できます.

ホットエアーの存在と,CDMの予想以上の発展ぶりは,目標値を厳しい方向にもっていくでしょう.一方で,米国の参加を目指すなら,逆の方向へのプレッシャーが生じるでしょうね.

炭素制約下社会の到来

2012年以降も重要ですが,2008年1月からは,CO2を無制限に排出できる時代は終焉を迎えます.

さて,そのような社会にどのように生きていけばいいのでしょうか?けっして他人事ではないのです.

[この文章は,ナットソースジャパンレター 2008年 1月号に寄稿したものに,少し変更を加えたものです]



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