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Last updated: 2009.09.05

EUの強力な隠し球?

EUが,欧州に乗り入れる国際フライトをすべからく(発展途上国からのフライトも含めて)EU ETSの枠内で規制するということは,いまではよく知られています.

これは,EUの「域内規制」であり,彼らが独自に(勝手に)決めたものなのですが,外国からのフライトも「(EUに定期便を乗り入れたいと思えば) 有無を言わさず」規制されます.

発展途上国の航空会社などは (日本の航空会社も?),「なんて身勝手な」と憤っていますが,EUは歯牙にもかけない様子です.その背景には,いままで規制の枠外で野放図だった国際フライトからのCO2排出も,もはや抑制しなければならない時期に来た,という「大義名分」があります (航空会社がどの国の会社か?はその大義名分の下では関係ないわけです).

地球温暖化規制の世界では,他の国の活動を直接規制しようということは,ほとんど行われてきませんでした.京都議定書もあくまで国内排出源規制であるわけです.

ところが,他の環境規制においては,EUはしばしば,(そのような明確な意図があったかどうかはともかく) EUの域内ルールや規制を,世界の事実上のスタンダードにしてきました.ISOもそうですし,RoHSのような家電製品への有害物質含有規制もそうですね.もちろん,環境規制に名を借りた非関税障壁という非難が日本や米国から出てくるわけですが,EUは自分が正しいと信じていますので,頑として引き下がりません.とくに製品に関しては,製品や部品市場はどこかで必ずEU市場と繋がっていますので,EUのローカル規制が世界のデファクトスタンダードにならざるをえないわけです.

この,「世界の rule of the game を EUが決めていく...」という傾向は,得意とするコンセプト・ビルディングをベースに,温暖化問題以外の世界ではよくみられるところとなっています.最近では,製品のLCA評価 (いわゆるカーボンフットプリント) や,カーボン・ディスクロージャーなどの領域で,CO2の世界への進出もみられます.

EUの特徴は,ルール策定の前に「理念」をとことん議論します.それに基づいていままでにない革新的な規制やルールを導入してきます.したがって,理念よりプラグマティックな点を重視する日本などは,どうしても「後追い」になってしまうのですね (日本で数少ない理念の明確な規制は 省エネ法のトップランナー規制で,これは他国で真似をされてきている希有な例でしょう).

話を気候変動問題に戻すと,最初に述べた国際フライトや,カーボンフットプリント,カーボン・ディスクロージャーなどは,まだまだ氷山の一角かもしれないわけです.

最近EUは,発展段階の高い途上国やセクターでのCDMプロジェクトからのCERの「EUでの購入量」に制約を置くという動きを見せています.セクター別カーボン市場,そしてその先には,発展途上国においてもキャップアンドトレードが必要であると言うことを公言しています.最大のCERバイヤーとしての影響力はきわめて大きなものですね.

また,たとえば,あるエネルギー効率以下の商品はEUでは売れないという規制が導入されたら?もう一歩進んで,エネルギー効率の悪い工場や国で作った製品はEUでは売れないとなったらどうでしょう?これらは,EUの「ローカルな」規制であるわけですが,発展途上国に対しては,きわめて強力な影響力が生じます.

日本はこれによる影響を受けないように見えます.では,EU ETSとコンパラブルな産業に対する国内規制を導入していない国からの製品はEU市場から閉め出す... というような規制が導入されたらいかがでしょうか?発展途上国に対してすら,キャップアンドトレードを要求してくるわけですから,いわんや先進国に対しては容赦しない... かもしれません.

EUは実はとんでもない隠し球を考えているかもしれないのです.



[この文章は,ナットソースジャパンレター 2009年 5月号に寄稿したものに,少し変更を加えたものです]



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