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Last updated: 2007.01.01 

CDMにおける理不尽なこと

CDMや国際交渉の裏面を垣間見ると,ときどき「理不尽」と思えるようなことに遭遇することがあります.それがどのようなものであるか...という点を考えてみましょう.「理不尽」というのは,

ということですね.

ひとつは,『政治的判断』に由来するものです.ご存じのように,原子力はCDMにはなりません.これはマラケシュ(正確にはその前のボン合意)における政治的判断でした.このように,ある意味ではじめからあきらめのつくものならいいのですが,昨今は,「自分の国ではそのタイプのプロジェクトができないから認めようとしない」という足をひっぱるタイプが目立ちます.

たとえば,HFC 23破壊プロジェクトへの風当たりなどがあります.CDMはGHG削減を目指すものであるため,これを目の敵にするのはおかしいわけですね.政治色がなくても,『好き嫌い』という色眼鏡がかかっていると言えるかもしれません.他のタイプの方が「好き」なら,そちらに別の(GHG削減以外の)付加価値を設定すべきでしょう.

その他,バイオ運輸燃料,非再生可能バイオマス(森林減少)に寄与するプロジェクト(たとえばソーラークッカーを提供することで森林破壊も緩和するプロジェクト)なども,かなり政治的な理由によって,まったがかかっています.

政治的判断はある意味で仕方がないのですが,CDM理事会メンバーがそれを行うことには大きな疑問を持っています.COP/MOPやホスト国が判断するのならわかりますが,CDM理事会は中立であるべきではないでしょうか?

理不尽なことのもうひとつのソースは,『思い違い』です.ジャッジする側の人間のなんらかの思いこみが,ある種のプロジェクト実施の妨げとなります.

たとえば,ESCOによる省エネルギープロジェクトは,そもそもビジネスとして行うものなのでCDMにならない...という先入観を持った人などが,Meth Panelなどにもいるようです.それを言うなら再生可能エネルギー発電だって同じことですよね.CER以外の収益があったって成立しないプロジェクトはいくらでもあります.ESCOとは,ビジネススキームというだけですね.

省エネ系(需要サイド)は,ほかにもアゲンストがあります.わたしが経験した例では,新方法論提案において,ベースラインシナリオオプションとして,「省エネ設備に投資するのではなく,生産増強に投資する」というものを挙げたとき,「そのようなシナリオは考慮してはならない.省エネとは同じ生産量であるとすべき」などというとんでもない返答がMeth Panelから返ってきました.途上国の実態を知らないばかりか,ベースラインの理論的理解がまるでなっていない...ということですね.

このような例は,思い違いというより,『無知』や『理解力不足』と言えるかもしれません.いくら説明しても,理解しようとしない『怠慢』な例も散見されます.

もっとも,これらはlearning-by-doingで発展してきたCDMの枠組みの一時的な擾乱と言えるかもしれません.いずれどこかの段階で,いちどきちんと概念の理論的整理をしておく必要があると思います.「保守性」,「バウンダリー」,「リーケージ」,「アプローチ」など,マラケシュアコードに起因する誤解を招く概念も,まだまだ健在ですから.

いちど,CDM理事会メンバーやMeth Panelメンバーに,どの程度理解しているかを質問してみたいものです.たとえば,「ベースラインはcounter-factual(実現し得ないもの)であるが,ベースライン排出量のモニタリングとは,なにを意味しているのか?」というようなものです.試験があってもいいかもしれませんね.みなさんはこの質問の解答がわかりますか?

[この文章は,ナットソースジャパンレター 2006年11月号に寄稿したものに,少し変更を加えたものです]



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