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Last updated: 2002.11.23
温暖化問題は,GHGs 排出削減に要するコストの大小などがよく問題になり,こんなに払うことはできない, などという議論がなされたりします.しかし,本来,どのくらいの対策まですべきかどうか,という話は, そもそもの温暖化を避ける(抑制する)ことのメリットと比較して,問題にしなければなりません (支払うコストに文句を言う人が,この点に言及して比較しているのは,聞いたことがありません).
温暖化を抑制するメリットは,温暖化によるダメージのコストという指標と,温暖化に適応するのに必要なコスト という二つの指標があり,これらはまったく異なる概念です.ただ,ここではそれらに踏み込まず, 温暖化のダメージというものの「とらえ方」を考えてみましょう (使った図は,すべて IPCC 第 3 次評価報告書の統合報告書のものです).
図 1 は,異常気象による損害が,過去 50 年間に急速に増えてきていることを表しており,保険会社, 再保険会社などの大きな懸念事項となっています.地球温暖化問題は,気候変動の問題とも呼ばれるように, 気候が変化するという形で現れます.怖いのは,平均値(たとえば地球の平均気温)がシフトすることよりも, そのまわりの「ばらつき」 たとえば干ばつなどの異常気象が,拡大あるいは頻度が増えることなのです. 図 1 の原因のすべてが 温暖化が「直接」原因となっているわけではありませんが, その「背景」にあることは間違いありません.
図 2 は,将来の気温上昇のシナリオにあわせ,どのような脅威がありそうか,ということを,インパクトの種類別に 見たものです.すでに脆弱なシステムの場合 I では,温暖化とそれにともなう気候変動の影響が小さい場合でも, 影響をまともに受けます.一方で,将来の大規模で不連続な現象 V (いわゆる取り返しの付かない現象ですね)のリスクは, 2100 年程度にならないと(逆に言えば 2100 年程度になれば)かなり大きくなります.リスクにも差があります.
温暖化問題の大きな特徴は,その時間フレームワークの大きさです.図 3 は,100〜300 年程度で「濃度」を 安定化させるシナリオを考えた場合(気候変動枠組条約の究極の目的を想定しています), そのための排出量の推移はどのようなものでなければならないか,気温はどうなるか,海面上昇はどうなるか, を表したものです.因果関係的には,【 GHGs 排出 → 濃度上昇 → 気温上昇 → 海面上昇 】ということですね. 排出量を現状水準よりかなり減らさないと濃度安定化はおぼつかないという衝撃的な結果に加え, たとえ濃度を安定化させても,気温は上昇し続け,海面はより上昇し続ける,ということです (特に氷床が関係するとたいへんです).これは,地球物理系における慣性を表し,大気,海,氷床などの熱容量の大きさを, そのまま反映しています.
気候の科学的側面にはいろいろな不確実性が潜んでいますが,図 1 は,厳然たる事実ですし,図 3 の定性的記述は, 議論の余地がありません.理系の人間なら誰でもすぐに理解できることは,ある系に一定方向から力(ストレス)を 加え続けると,最初はそれを吸収しても(負のフィードバック),そのうちに,非線形に「急に」一方方向に系が 遷移するということです.温暖化の場合,このストレスを加え続けていることになるわけで, どこかで 図 2 の V に相当することが起こることは避けられません.これは疑いようのないことでしょう (いつ?どのような?という点は,今後の課題ですが).
肝心なのは,これらの知見をどう解釈して,「いまの」行動に結びつけるか,ですね.世代間の公平性, すなわち,子供,孫などの将来世代に対する責任をどう考えるか,という問題でもあります. 京都議定書は小さな第一歩であり,温暖化を「少し遅らす」時間稼ぎにすぎないのも厳然たる事実ですが, 少なくともそれをきちんと行うのが,現世代の責務かと思うのですが,いかがでしょうか? そんな小さな効果ならやってもムダと無視しますか? それとも知らなかったことにしますか?
[この文章は,ナットソースジャパンレター 2002年 11月号に寄稿したものに,少し変更を加えたものです]