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Last updated: 2003.01.01
現在,CER 価格は,t-CO2 あたり 3〜4 ドル程度 (PCFの場合) といった ところでしょうが,将来はどうなるでしょうか? 2010 年時点で 10 ドル程度と考える人が 比較的多いようですね. 英国排出権は 一時 15 ポンド程度に上昇したものが,今では 10 ポンド以下という話もあります.
今回は,将来の(京都体制における)排出権の価格見通しを行う上で,このような「数字」や各種情報を, どう解釈すべきであろうか? という点を考えてみましょう.
まず,おなじ GHG や CO2 排出権取引制度であっても, 制度が別で市場が繋がっていなければ,排出権価格は当然,異なってきます. たとえば,英国制度は現段階では 京都体制と直接つながっているわけではなく,英国制度における排出権は, 英国「国内」制度(たとえば国内的な目標の厳しさ)や 市場の状況(たとえば CCL からの参加者の動向)に依存し, 京都とは 今のところ独立したものと考えるべきでしょう. もっとも,英国制度では CDM クレジットが使えるということになっていますから, それを通じて(共通通貨として)京都体制と繋がってくると考えられます.
一般には,特に 長期的トレンドとしては,排出権価格は,需要と供給の関係で(ダイナミックに)価格が 決定されてくると想定されます.もっとも,当初は現物は CERs のみですから, CDM プロジェクトを実施するにあたっての「コスト」をベースにした価格が付いてくるでしょう. すなわち,原価によるものから,自由競争市場価格への遷移が見られると期待されます.
長期的なトレンドを追う場合,しばしば(エネルギー需給を扱った)マクロ経済モデルが 分析に用いられます. モデルは強力なツールであるわけですが,問題は,しばしば誤った「使い方」が なされるという点です. 多くのモデルの平均値が正しそうだ,などという考え方は単純すぎます(みんな一様に間違うことだって多いのです). まず,モデルは,そのモデルや試算方法上の「性格」を 十分に把握する必要があります. 「考え方」や「前提条件」ですね.モデルのドキュメントを読むことは重要ですが,それ以外に, モデルの性格や特徴を 比較的簡単にかつ客観的に分析・把握する方法として, 「バックキャスト」という方法があります.これは,「フォーキャスト(予測)」の逆で, 過去に行ったモデル予測や見通しと,実績値との比較を行うことで,そのモデルの出す数字の「性格」を ある程度知ることができます.たとえば,資源エネルギー庁の長期エネルギー需給見通しの数字は, 高度成長期は 実績値の上方の値ばかり示し,温暖化問題が出てきてからは 下方値ばかり示してきていて, (予測でも見通しでもなく)政策の青写真としての性格を よく表しています.
また,現実の市場は,モデルの前提となるような完全であったり,最適解を選択するということはあり得ませんから, その意味での「補正」も必要ですね(補正程度で済めばいいのですが).
京都体制における GHG ユニットの価格という意味で,長期的に大きな影響を及ぼすファクターとしては,
が,挙げられるでしょう.
ロシアの問題は,2003 年に予想されている批准状況(タイミングも影響します)もありますが, 特に重要なのは,京都メカニズムの参加要件を満たすかどうか,という点です. GHG インベントリー,レジストリーなどの整備を行うという要件を満たさなければ,トラック 2 の JI のみ, 悪くすれば 京都メカニズムにはまったく参加できないというおそれもあり, 現時点でその可能性は かなり高いと言わざるを得ません.そうなれば,ロシアは排出権の OPEC でも何でもなく, 排出権価格は かなり高い水準になるでしょう.
その他,ロシアの不確定要因としては,参加できたとしても,どの程度「売り惜しみ」をしてくるか という点も問題ですね.これにはロシアの国内制度との関係も重要でしょう.Gazprom や Rao UES といった 超巨大国営企業の再編問題とも関わってくるかと予想されます.
第 2 期目標の厳しさは,当然,排出権の需給に関係します.国際交渉としては,第 1 コミットメント期が 始まるまでに決めることになっています.もっとも,厳しい目標となった場合に, (バンキングのため)第 1 期の排出権供給が抑えられると見るか,省エネ投資などが早期から促進され むしろ排出権供給が多くなるか,という点はそう単純な話ではありませんが...
関連するものとして,米国や途上国の 参加問題も関連してきます(前者は需要サイド,後者は供給サイドでしょうか). 2004 年末の米国大統領選は,その意味でも 排出権価格に影響を及ぼす可能性もあります.
一方で,排出権価格は,短期的には,市場参加者のさまざまな「思惑」を反映します. 議定書発効の可能性,タイミング,CDM ルールの整備状況などが,かかわりあってくるでしょう. 排出権市場だけでなく,市場は「期待」値に反応します(数学で言う期待値は平均値のことですが, ここでは「期待」する値という意味です).たとえば,第 2 次オイルショック時点に 省エネ投資などが急速に進んだのは,バレル 40 ドルに上がった「事実」というよりも, このままでは 100 ドルまで上がるのではないか,という「期待」に基づくものだったといえるでしょう.
比較的近い問題として注目されるのは,EU ワイド排出権取引制度がどのようなものとなるか,という点でしょう. 導入されるタイミング,対象セクターのカバレージ,目標の厳しさ,英国制度との関係,CERs が使えるかどうか, そして,日本などの排出権取引制度とリンクされるかどうか,などが注目される点でしょう.
以上,さまざまな不確定要因を挙げましたが,これらの「性格」をきちんと把握することで, これらに付随するリスクをより的確に把握したり,なにかが起こったときの対応が容易となります. 日本の国内規制の不透明さのカーテンよりも「向こう」にも,目を向ける必要がありそうですね.
[この文章は,ナットソースジャパンレター 2002年 12月号に寄稿したものに,少し変更を加えたものです]