Upper Image
Climate-Experts Logo

ウインドウ内の余白部分を左クリックすると 【メニュー】 がでます. あるいは ページ下の リンクボタン をお使い下さい.
Netscape 4 の場合,再読込ボタンが機能しないことがありますが,その場合 url 表示窓をクリックし, Enter キーを一度打って下さい.

Last updated: 2005.10.26 

温暖化フレームワークの不確実性のリスク

COP 9が終わり,シンクCDMもルールが決まるなど,これでCOP 4において合意された「ブエノスアイレス行動計画」が,ようやく完成したことになります.

さて今回は,COP 9会期中においても世間を騒がせたロシアの批准問題を含め,温暖化の国際的および国内的な枠組の将来に関する不確実性と,そのリスクをどう考えるか?という点を考えてみましょう.

言うまでもないことですが,リスクは,それを正しく評価できれば,他の人に対して相対的に有意な立場に立てます (リスクは「機会」でもあるわけですね).したがって,漠とリスクがあるから… ということは,行動を採らないことの言い訳にはならず, それはすなわち,リスクを適切に評価できないということを表しているとも言えます. もちろん,適切に評価した上で,行動を採らないことが最適の選択である,という判断ができたのなら,何の問題もありません. でも,その場合,リスクが小さくなったらすぐに行動を起こせるような「準備」を整えておく,ということがビジネス戦略上重要かと思われます.

さて,ここでは,不確実性として,ロシアの批准可能性,EUのLinkage Directive,日本の2005年以降の国内制度を考えてみましょう.

京都議定書発効のカードを握っているロシアですが,彼らの行動にはいくつかの特徴があります.たとえば,

? 同じ会議やサイドイベントによって,同じ政府部内の人の意見が異なる, ? 批准にポジティブな意見が出されたすぐあとに否定的な意見が他の人から出される (この一年間ほどの間に何回変わったことでしょう.COP 9期間中にもメディア情報は二転三転しました),

といったことは,結局,政府部内の意思統一や対処方針ができていないことを表しています. したがって,あまり一喜一憂するべきでなく,プーチンさんの言葉「だけ」を参考にすべきではないか... ということになるかと思います(彼は批准に後ろ向きな発言はしていないと思います).

加えて,Rao UESなどの最近のJIに対する積極姿勢や,京都議定書が彼らにとってそもそもかなり得する話であること, 京都が死んでしまったら次にできるであろう議定書には,ロシアのホットエアーはもう見込めないこと, EU(や日本)などの弛まぬ外交圧力などから(特にEUの圧力は来年はますます強くなるでしょう), わたしは批准は時間の問題ではないかと思っています.本格的検討がはじまれば, インベントリー整備に要する時間などのボトルネックが見えてくるため(バーゲニングの時間はあまりありません), 来年のCOP 10が,COP/MOP 1になる可能性はかなり高いと思っています.もっとも,ブッシュ政権からの強力な圧力があるのなら, 状況は複雑かもしれません.その場合には,2004年末の米大統領選後に判断するのでしょう.

2005年からはじまるEUの排出権取引制度では,2008年からCERやERUが使えるようになるはずです. 問題は,それが京都議定書の発効が条件となっているか?という点ですね. 現状のDirective案では,厳密に解釈すれば,議定書が発効しなければ,linkageは無理です. しかし,今回のCOP 9のサイドイベントから,かなりはっきり,欧州委員会は議定書が発効せずとも, このLinkage Directiveを有効にする意志が強いことがわかりました. ニュースによると同様のことを欧州議会も考えているようです.その意味で,欧州の市場では, 議定書発効の是非は,それほど大きく影響しないようになっていくのでしょう.

長年,温暖化国際交渉をウォッチしている目から見ても,おそらく議定書が発効しなかったら,そのうちに(数年遅れで)京都もどきの議定書ができ,そこでは,(現在,気候変動枠組条約の下で暫定的に動かしている)CDMのクレジットは有効になることは間違いないと思っています(ほとんど反対する国は出ないでしょう).

一方で,日本の国内制度に関してですが,Japan Carbon Fundの話や,いままでの政府のCDMに対する積極促進姿勢などからも,それが無価値になってしまう可能性はきわめて低いでしょう.

それよりも,2004年の大綱の改正が,はるかに大きな意味を持ってくるでしょう.すでに,政策レビューと「必要に応じて」追加的な政策導入は,シナリオに「不可避なものとして」組み込まれています.必要性に関しては,政策レビューを待たずとも明らかであるため,どの程度の措置を入れれば,日本の排出量の一割強程度の効果をあげることができるか?という点が重要となります.みなさんも,政策担当者になったつもりで考えてみてください.そして,それへの対応をいまから用意しておいた方がいいでしょう.

ここで述べたのは,わたしの考えです.当然,各種バイアスがかかっているかもしれません.みなさんは,ぜひ,ご自分で情報を収集し,きちんとした分析の上,これからの(直近の)戦略的行動を起こしていただけたら...と思っています.行動を起こさないリスクも,きちんと評価してください.

[この文章は,ナットソースジャパンレター 2004年 1月号に寄稿したものに,少し変更を加えたものです]



Move to...

Go back to Home
Top page

Parent Directory
Older Article Newer Article