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Last updated: 2008.6.25
その意味するところ
2008年6月9日,福田首相は,いわゆる「福田ビジョン」を発表いたしました:
http://www.kantei.go.jp/jp/hukudaspeech/2008/06/09speech.html
「低炭素社会・日本」をめざして,というタイトルが付いていました.洞爺湖に対する考え方や方針を示したものであるわけです.ビデオでの配信もありますので,30分以上の長時間ですが,首相の意気込みが出てもいますので,よろしかったらご覧下さい.通常の首相の話とは異なり,「ビジョン」を目指したものとしてユニークだったと思います.
この「福田ビジョン」に対して,ここではその不十分な点を指摘するというより,新たな社会に向けて評価できる点を考えてみましょう.これは外国に日本の考え方を示すものであると同時に,日本国民へ「この方向で進みたい」という現在の最高責任者からのメッセージでもあるのです.
福田ビジョンには,
低炭素社会の実現には、世界全体での取組と、足下での国民運動という二つの視座を同時に持ち続けることが必要になるわけであります。 |
とあります.この両方のポイントに関して,このステートメントをみてみましょう.
世界全体での取り組みの必要性
福田ビジョンでは,世界全体での半減=先進国は60?80%の削減 を目指すという長期目標を明言しました.共通だが差異のある責任の精神を明示したことは,当然ではあるものの,評価できるでしょう.
2020年の中期目標に関して,地に足の付いた議論の重要性も指摘したことは重要ではあり,セクター別の精査が重要であることも確かであるわけですが,2005年を基準とすることを示唆するなどの点が「独りよがり」と受けとめられざるを得ないことは残念です.1990年以降,減らしてきた国に対して,まず「日本はがんばったけど数字の意味でパフォーマンスが出なかった」ということを,認めるべきではないでしょうか.また,2050年のトップダウン的目標との矛盾点が生じた場合,どのように考えるべきか?という点が説得性のある形で示されなければ,途上国としても受け入れがたいものとなるでしょう.
担保措置という意味で,京都議定書第2期 の先進国全体のキャップに言及し,それが2050年地球全体の目標と矛盾がないレベルに設定され,また全体として確実に遵守できるようにする,という一言が欲しかったですね.
また,「全員参加」と「公平かつ公正なルール」を両立させるための考えの一端が現れるとよかったですね.まずは,「日本はいずれにせよ,京都議定書での第2期でがんばる」ということを宣言した上で,途上国に関しては,たとえば所得水準などに応じた応分の責任を感じてもらうべきと思う...というようなことでしたら,言及できたのではないでしょうか.
低炭素社会にむかう日本のしくみ
なんと言っても目を引いたのは,国内排出量取引制度をやってみるという宣言ですね.
上記の点は,京都以降現在に至るまでの閉塞感を解消する上でも,非常に重要な一歩であると思います.米国でも英国でもEUでも,排出権取引制度はけっこう失敗してきています.それはとりもなおさず,そこから学ぶこともできることを意味していますが,日本はかなり偏見を持っている人も多いようですので,やはり一回くらい失敗してもおかしくはありません.
わたしは,日本のできることは,「低炭素社会はどのようなものか?」を,具体的なものとして示すことにあると思っています.その意味で,この決定は非常に重要なものと考えます(これは,PEARの目指す社会でもあります).温対法改正においてエネルギー供給業者にはそれが努力義務となりますが,通常の消費においても,その都度,CO2排出を認識するような社会が望まれます.食品のカロリー表示と同じですね.
これと呼応して,
国民は、観客席で低炭素社会への動きを見ているのではなく、一人ひとりがその「演じ手」であり、「主役」であるのです。低炭素社会をつくっていくためには、知ること、新しい社会を描くこと、行動すること、そして伝え広げることが大切であります。 《中略》 政府の役割は、低炭素型に行動を変えたくなるような仕組みづくりを提供するとともに、まだ意識していない人たちに対し、気づきのきっかけを提供していくということであります。 |
との指摘もあります.これはすばらしいメッセージですね.当事者意識を持ち,自己の責任の問題と認識すること,PEARではそれをカーボンオフセットの基本としましたが,みながそのように思って行動できる社会ができたなら,それこそ,世界に対して「低炭素社会のモデル」と言えるのではないでしょうか.
みなさんは,このメッセージをどう受け取ったでしょうか?批判的な側面だけでなく,どうやれば低炭素社会をつくっていくことができると思われるでしょうか?そして,あなたなら,どんなメッセージを発したいと思いますか?
P.S.
今回の内容とは関係ありませんが,PEAR (http://www.pear-carbon-offset.org/)は,一般向けカーボンオフセットサービスを開始し,またWebも全面的にリニューアルしました.ぜひ,一度訪れてみてください.
[この文章は,ナットソースジャパンレター 2008年7月号に寄稿したものに,少し変更を加えたものです]