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Last updated: 2010.05.04

責任の分担

地球温暖化対策基本法案が閣議決定され,排出権取引制度などの政策措置ポートフォリオの議論が再開されることとなりました.困ったことに,全体の数値目標やそれに至る排出経路が「条件付き」という「不確実性を残した」形となりそうです.せめてEUのような「最低ライン」だけでも決めてもらえれば,もうすこし日本国内の主体が動きやすいのですが,日本では,政府や一部の企業は,いつまでたっても「明確化することを嫌がる」ようです.はかない「一縷の望み」を期待しているのでしょうか...

さて,(外国からの排出権調達も含めた)日本全体の数値目標が決まった場合,日本政府はその目標を遵守するため,さまざまな国内政策措置を実施します.いままでは,目標遵守は「日本政府だけが責任を持つ」という形でした.すなわち,数値目標を排出量が超えた分は,国がその超過分を何らかの形で調達する「責任」を負っているわけです.

一方で,Cap-and-Trade型排出権取引制度(ETS)を導入する場合,その責任の一部を,ETS部分に明確な形で背負わせる(委譲する)ことができます.たとえば日本の排出目標(何トンという数字です)の55%をETSの排出可能総量(このことをキャップといいます.個々の企業の目標のことではありません)とした場合,このETSでカバーされたセクターは,内部での排出削減(ETS内国内取引も含む)と,外国からの排出権調達によって,その目標を遵守することが(国内規制として)担保されます.これは実質的に,55%分の責任をカバーされた企業などに委譲したということと同じです.

一方で,残りの45%は政府の責任として残りますから,政府はそのETSでカバーされないセクターに政策措置を課し,それでもそのセクターの排出量が45%分を超えた場合には,その超過相当分の排出権の海外からの調達責任を,政府が負うこととなります.

この場合,まず55%と45%というように,ETSでカバーするセクターとカバーされないセクターの比率は,まさに「責任分担の比率」に他なりません.これをどのように決めるかは,政治的判断となります.たとえば,従来から省エネが進んできた産業界の努力や国際競争力の観点を評価するなら,ETSセクターの比率を(現状の排出比率と比較して)上げる(キャップを相対的に緩くとる)こととなります.一方で,まだ生活の利便性などが十分でなく相対的に民生部門の増えることを認めるのであれば,ETSセクターの比率は小さくセットするということですね.

このように,ETS内の初期割当の問題よりも,まず,日本全体でのセクターごとの「責任分担」を(そのクライテリアとともに)明確にすべきではないでしょうか.わたし個人は,ETSセクターの比率を,現在の実排出量比率よりもやや多めに(相対的に責任を,民生部門の責任よりやや緩く)設定することがよいのではと思っています.これはセクター間の「公平性」の観点ですね.

原単位目標のようなcap-and-trade型でない要素のあるETSの場合,そこが不明確になってしまいます (すなわちこの方式は,責任の所在を不明確にしておきたい?というケースを意味します).

次に,それぞれのセクター内の責任の分担の話が来ます.ETSセクターでは,これが初期割当の方法になるわけですね.たとえば国際競争力にさらされている部門に比較的緩い目標を設定するなどの「政治判断」がそこにははたらくわけです.

このETS部門は,全体でキャップ分だけしかネットで排出できないわけです (外国から排出権を調達すれば実排出量は原理的にはいくらでも増やすことはできます).このためにはcap-and-trade型ETSがあれば十分で,言い方を変えれば他の政策措置は要りません.一方で,排出権購入より社内での省エネ投資を推進させるための補助金制度や,技術革新を促進させる政府プログラムなどを,追加する(これらとポートフォリオを組む)ことも可能です.ただ,これらの各種政策手法は,国内の省エネ投資促進,エネルギー安全保障,中長期的な技術革新といったいくつかの(全体目標遵守以外の)目的を達成するために,それぞれの特徴を活かす形でポートフォリオを組むべきものとなります.排出目標遵守だけなら,cap-and-trade型ETSで十分となります (かつ原理的には短期的な経済効率性は最大となります).

その一方で,ETSがなじまない(と思われETSでカバーされない)民生などのセクターには,たとえば炭素税のような手法がありうるでしょう.おそらくこのセクターも,たとえば45%という責任分担分を満たすためには,政策措置による国内削減だけでは不十分で,海外からの排出権調達が必要でしょう.責任関係を明確にするのであれば,「このセクターからの」炭素税税収などを用いて,政府が排出権調達を代行するという考え方が国民に対して説明しやすいかと思います.

もちろん,このセクターも,各種政策目的にしたがって,それを達成するための政策手法を組み合わせることができますね.

責任の分担

以上,「責任分担」という考え方を明確にすることは,国民に対して「納得してもらう」ためには,わたしは非常に重要な要素だと思っています.「責任の所在や大きさをできたらあいまいにしておきたい」という考え方は,すでにいまの厳しい状況では,時代にそぐわないものとなっているのではないでしょうか.きちんとみずからの責任分担分を意識し,それをそれぞれが果たそうとすることが,企業から市民に至るまで,どの主体にとっても重要であると思っています.その責任を果たす方法は,個々に与えられた排出目標の遵守(企業の場合)や,排出分の税金を支払う(国民生活面など)というように異なってきますが.

いかがですか?



[この文章は,ナットソースジャパンレター 2010年 4月号に寄稿したものに,少し変更を加えたものです]



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