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Last updated: 2010.05.04
むかし,製品CDMと称して,省エネ電球を「販売」する行為が,CDMにならないかどうか?ということにトライしたことがあります.使い方に依らず定格寿命の間は使われると想定されるので,「定格寿命×W数の削減分」というきわめてシンプル(で正確な)な計算方法がオリジナルのアイデアだったのですが,方法論パネルは,あくまで使用段階のモニタリングにこだわったので,時期尚早だったというのもありますが,あまりうまくいきませんでした.
とくに家庭用の家電などを想定した場合,モニタリングはきわめてシンプルなものにする必要があるのですが,どうも「審査する側」は,ネガチェックの傾向があり,そういう現実に即した(ワーカブルかどうか)という考え方や,進めるためにはどうすべきか?という考え方には抵抗があるようです.日本の国内クレジットやJ-VERなどもその傾向があるようです (JIトラック1と割り切ればいいのですけどね).
さて,今回は,日本の(キャップ・アンド・トレード型)排出権取引制度において,製造業へのインセンティブを与えるという意味で,類似の仕組みを組み込むことができるかどうかを考えてみましょう.
いまの排出権取引制度は,CO2を出すところ,すなわち直接排出量をアカウンティングの基準に考えます.間接排出量を考える場合にも,せいぜい電気だけですね.
では,さらに枠を拡げることができないか?というと,それは原理的には可能です.問題は,制度が複雑になる懸念があること,そのためのルール設定が必要であること,などです.
逆に言えば,シンプルなルールを設定できれば,それは機能できるはずです.
これは間接排出量の一種である電気の場合でも同じことです.電力会社によっても,時間帯によっても動いている発電所は異なるため,実際のCO2排出原単位は異なるわけですが,それを「平均原単位」というきわめてシンプルなひとつの数字を使うという「ルールを設定」することで,乗り切ろうとしているわけです.
どんなシンプルなルールが考えられるでしょうか?LCA計算をきちんとしなければ動けないものでしょうか?そんなことはないはずです.「運用方法が任意性のない明確なルール」でありさえすれば,制度としては機能します.逆にそうでなければ,機能しないといえるでしょう.
かといって,現実から乖離したものではやはり心情的にも困るでしょう.そのような場合には,「すでに動いている制度」を活用することです.たとえば,省エネのラベリング制度などを活用して,グレードごとにCO2削減効果の「計算方法を規制当局が規定」し,その製品の「製造販売個数×個々のCO2削減効果」分の排出権を,販売後に製造業がもらえるような制度が考えられるでしょう.既存制度がない場合,類似の拡張をしていくことは可能ですね.
これは製造者に対し,省エネ型製品開発と販売努力のインセンティブとなります.
概念としては,購入側にも,インセンティブを付けるという意味で,排出権を用いるという方法も考えられます.ただ,(明らかな)ダブルカウンティングは避ける必要があるでしょうから,製造側の排出権スキームとは共存できません.わたしは,購入側には,より簡便でなじみのあるエコポイントなどの補助金制度で対応した方がいいと思っています (であれば共存できます).
省エネ製品に購入側と製造側に(補助金と排出権で)ダブルでインセンティブを付けるのはいかがなものか?という意見もあるかもしれません.ただ,省エネ製品開発と普及という政策目的を重視するのであれば,それの問題はとくにないと思います.
気になるのは,排出総枠=キャップの点です.やはりダブルカウンティングの問題を考えると,排出権取引制度でカバーされる主体に販売するケースを除く必要があるでしょう.言い換えると,カバーされる企業などに販売する分や製品は,(インセンティブを付けるなら)補助金などの別のインセンティブ設定方法を用いる必要があるということです.
また,今回想定したものは,ベースライン・アンド・クレジット型の排出権で,上記のように排出権取引制度でカバーされない主体を対象としたものですので,制度的にカバードセクターの排出総枠に影響を及ぼすことはありません.
いずれにせよ,家庭に販売するものなら,非常に「シンプルな」ものとしなければ,機能しません.モニタリングは,販売個数に限るべきで,その他のパラメタは,最初から与えてしまうようなことをすべきでしょう.これは製造業に対するインセンティブスキームなのです.
[この文章は,ナットソースジャパンレター 2010年 5月号に寄稿したものに,少し変更を加えたものです]