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Last updated: 2003.08.13  

CDM PDD の役割

以前,CDM のプロジェクトデザインドキュメント (PDD) のフォームについて概要を述べましたが, ここでは,その役割を考えてみましょう.

PDD は言うまでもなく,そのプロジェクトの,CDM としての,すなわち GHGs 排出抑制という意味での「設計書」です. 第三者である Operational Entity が,その妥当性をチェックするわけですが,これが「いいかげん」であっては, プロジェクトを実施した後で,その設計書を元に排出削減を検証することが困難になってしまいます (検証は一般には,validation を行う OE とは別の OE が担当します).

具体的には,たとえば「排出量のモニタリングの方法と計画」を考えてみましょう.ここでの「排出量」とは, プロジェクトからの排出量と,ベースライン排出量の二種類があり,この双方をモニター, すなわち何らかの方法で決定しなければなりません.ある物理量を実測する場合もありますし, 統計書をベースにする場合もあるでしょう.プロジェクトバウンダリーの外の効果も,推計する必要があります.

いずれにせよ,ここでは「どの程度確からしいか?」という不確実性や誤差・有効数字に関する基礎知識が必要とされます. 統計学に精通している必要はありませんが,五桁も六桁も,Excel の数字をそのまま書き写しているのでは, 有効数字という概念がまるでわかっていないことを露呈するようなものです.エネルギー統計などを用いるような場合, 計器を実測するような場合,常に,有効数字の大きさを意識しなければなりません.

ここで述べた「不確実性」とは,ある用いるべき「方法論」が決まった後での誤差のことですが, その「方法論」の選択自身も,複数あり得ます.たとえばモニタリングなどに関して,よい OE は, PDD に書いていない方法でのチェックを行うことでも,排出量の検証を行おうとするでしょう. もっと重要なのは,再三強調しているベースラインです.この方法論の違いによって,得られるクレジットの量は, 大きく(数十%〜数倍)異なってきます.PDD を書く側の立場からは,できるだけ多くの可能性のある方法論を検討し, 実際に代替案として検討したことを PDD に書くことによって,最終的な結論の正当性を主張することができます. 逆に,validation を行う OE は,PDD に書いていない方法論まで含めて,その正当性をチェックしなければなりません.

そして,これらの方法論の幅,および,ひとつの方法論における誤差の幅の中で,もっとも conservative な形で, 方法論が決定され,それに基づいて,実際の排出量の検証が行われることになります.

また,重要なことは,これらの方法論(ベースライン方法論とモニタリング方法論)は,一度, CDM 理事会において承認される必要があるということです.すなわち,既存の方法論で適当なものがなければ, OE を通じて(OE が認めたものを)CDM 理事会に諮らなければなりません.

それではこの場合,「新方法論」をどのように記述することが求められるのでしょうか? 現段階では CDM 理事会も,Meth Panel も,この問題をきちんと論じていません.たとえば,conservative という条件を どう扱ってよいのかも,PDD のフォームだけでは,よくわからないのが実情です.

方法論の standardization としては,いわゆる「判例主義」を用いて,徐々に方法論の標準化を行っていく, という考え方が採られています.したがって,あとで「似たような」プロジェクトが その方法論を採用することができるか どうか?を,新方法論の中に,明確に定義しておかなければなりません.言い換えると「適用条件(「似たような」の定義)」 の明確化が求められるわけです.Decision-Tree という形で表すことも有効でしょう.これをきちんとしておかないと, 似たようなプロジェクトが後で出てきても,既存の方法論が使えるかどうかを 判断のしようがありません.

最後に,このようなきちんとしたプロセスを経て PDD を作成し,OE がそれを validate, 実施段階では排出削減量の検証を行うような制度が,なぜ必要なのでしょうか? それは,CDM が目標を持たない国との間で行われるからです.すなわち,きちんと排出削減量が定義できないと (そしてそれが conservative なものでないと),プロジェクトを実施した結果,世界の排出量が増えてしまう という結果になりかねません(CERs は先進国の排出量をオフセットするのに用いられますから).

言い換えますと,目標を持った国同士の JI においては,そのようなややこしい,きちんとしたプロセスは 原則として必要ないことになります.これが,JI の「トラック 1」ですね. 目標を持った国であっても,きちんとしたレジストリーなどの制度が整備されていない場合に, CDM ライクな「トラック 2」が用いられる理由は,プロジェクトによって結果的に排出量が増えてしまうことを防ぐ目的なのです.

[この文章は,ナットソースジャパンレター 2003年 2月号に寄稿したものに,少し変更を加えたものです]



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