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Last updated: 2002.09.01  

CDM における追加性とベースライン

CDM などのプロジェクトにおいてクレジットの量を確定するためには, 「削減量」を定量化させなければなりません.そのためには,「何から」削減したか? を決定しなければなりません.「何から」とは,「そのプロジェクトが存在しないとした場合から」で定義され, これをベースラインと呼びます(削減量=「ベースライン排出量」マイナス「実際の排出量」で定義されます). ただ,よく考えてみると,「そのプロジェクトが存在しないとしたら」ということは, 原理的に測定不可能であり,その意味で,ベースラインの決定(測定ではありません)は, すぐれて人為的な所作となるわけです.

もっとも,ベースラインの決定にはそれなりの「ちゃんとした(説明できる)理由」が必要なのも事実で, マラケシュアコードでは,CDM の部分に関して,その手続きや方法の概要を記しています.なお, JI のトラック 1(簡単な方)に関しては,CDM のような手続きは必要としません (トラック 2 は,ほぼ CDM と同じです).また,小規模 CDM プロジェクトに関しては, 簡便化された方法が用いられることになっています.

現在,ベースラインの方法論に関しては,CDM 理事会の下に 10 人の専門家によるパネルが作られており, 9 月あたりまでにかなりインテンシブな議論が行われることになっています. 以下は,わたし個人の理解に基づく解説ということと了解してください.

個々のプロジェクトのベースラインを決めるにあたって,過去のすでに確立した「類似の」プロジェクトの ベースラインの「手法」を(場合によっては少し修正して)用いることは,リーズナブルです. そうしないとさまざまな手法が乱立して,信頼のおけるスキームにはなりえません. この「同じ」手法を「類似の」プロジェクトに採用することを,ベースラインの「標準化」と呼びます. これは,同じ「値」を用いることではなく,同じ「考え方」を適用するということです.

あるプロジェクトを考えた場合,どのような方法でベースライン排出量を計算するか,という点には, 「decision tree」というフローチャートが用いられるでしょう.いろんな条件で分岐したフローチャートを 上から辿っていくと,最後には方法論が確定し,それにパラメータの数字を代入すればベースライン排出量が 決定されるというわけです.この decision tree そのものが,標準化されたベースライン方法論 (を具現化したもの)というわけですね.

この decision tree を用意するプロセスは,判例を積み重ねていくプロセスに似ています. すなわち,新たな事例を検討し,さらなる分岐(場合分け)を追加する必要が出てくれば, それを付け加えたりすることで,より精緻化していくといった「生きた」プロセスなのです.

当該プロジェクトのベースラインの方法論は,プロジェクトの申請者が検討します.その際, 既存の「判例集」に類似のものがあれば,それを(必要に応じて修正して)用いますし, なければ自分で開発しなければなりません.その妥当性は,申請されたプロジェクトが適格であるかを判断する Operational Entity がチェックすることになります.その場合,申請者はその方法論の妥当性を 説明できなければなりません.

その際,いくつかの留意点があります.まず,その方法論(ベースライン排出量の数字ではありません)が, 有効でかつ不変である期間 (crediting period) を選択しなければなりません.CDM では 10年一期 あるいは 7年最大三期の いずれかとなります.それから,そのベースライン設定の際のバウンダリーの設定も重要です. これは,どの範囲の排出量までカウントするか,という点です.必ずしもオンサイトの部分が 適切というわけではありません.

また,ベースラインの方法論は,申請時にプロジェクトデザイン文書に書き込み,それが認められれば crediting period(一期)を通じて適用されます.しかし,その「数字(排出量)」は, 申請時には「見込み」の数字を書いておきますが,クレジットはあくまで事後的な「実績値」をベースに決定されます (ベースライン排出量も実際の排出量も同じです).したがって,数字(値)としては,当然,当初見込みより 多くなることも少なくなることもあるわけですね.

最後に,「追加性 (additionality)」という概念を考えてみましょう.この概念は,「広義の」ベースラインの概念 と言うこともできます.「そのプロジェクトがなかりせば」という条件そのものですね.一方, 狭義のベースライン(排出「削減」の追加性)に加え,いくつかの種類の追加性も考えることができます. マラケシュアコードで認められているのは,(公的)資金の追加性で,これは既存の ODA の流用であってはならない, というチェックとなります.それ以外の追加性は,あらわな形では求められていません. 言い換えると,チェック項目として入るのであれば,ベースライン方法論となる decision tree の中に紛れ込む という形でしょう.

例としては,投資の追加性(収益性に関わるもので,リスク判断なども考えるとまともに扱うことは かなり難しいですね),技術の追加性(Best Available Technology の類です), 政策の追加性(たとえば拡大 EU 諸国での JI で,当該プロジェクトがなくとも EU 環境規制を満たさなければ ならないという点です)などがあります.これらが「運用上」どういった形でベースライン方法論設定に入ってくるかは, 現状では不透明ですが,運用可能なものであるべしという制約は必須でしょう.

[この文章は,ナットソースジャパンレター 2002年5月号に寄稿したものに,少し変更を加えたものです]



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