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Last updated: 2009.01.02
政策措置のオプションとして,排出権取引制度は試行制度が動き出し,環境税に関しても議論が動き出しています.市場にCO2排出の価格シグナルを導入するという点で似た2つの制度が併存させる場合のデザイン上のポイントを考えてみましょう.
欧州では,EU ETSが導入されるだいぶ前から,北欧をはじめとする多くの国において,炭素税あるいは環境税が導入されてきました.
経済理論的(理念的?)な炭素税とは,炭素含有量に比例し,価格効果によってCO2削減をするもので,それによってコスト最小化を狙うものです.ただ,「現実世界」では,これとはかなり異なった課税制度とならざるをえません.詳細は省きますが,現実世界の炭素税は,温暖化対応以外のさまざまな点を考慮することが必要です.
下図は,欧州諸国の場合においてどのような点が考慮されたか?という点を図示したものです(EUとしての課税をしようとした試みは失敗に終わり,各国が独自の炭素税を取り入れました).
図: 欧州における炭素税デザイン上の主要論点
それらを考慮した上でのデザイン上,もっとも重要な点は,以下の2点に尽きるノ と言っても過言ではありません:
とくに最初の点が,(国によって方法は異なるものの)最大のデザイン上のポイントであると言えるでしょう(日本の場合は,その他,揮発油税などの道路財源目的税の問題とからんで,政治的なファクターが大きく入ってくるでしょう).
排出権取引制度は,同じ経済的手法で,理想的な状況でコスト最小となる,という意味では,炭素税と似ています.上記のように,炭素税は実際は,理念的なものとはなりえず,その場合,理念的なものからずれてくればくるほど,経済効率性が落ちてくると言えるでしょう.
一方で,排出権取引制度の場合,経済効率性は「取引」の部分が担っているため,経済効率性を犠牲にせず,政治的な課題(とくにエネルギー多消費産業への優遇措置)を扱うことができます.すなわち,割当の仕方において,その部分の考慮をすることができます.
すなわち,「そのように政治的部分を割当部分に押し込め,取引部分をできるだけシンプルでバイアスや摩擦が入らない」ようにデザインすれば,政治的な課題と経済効率性を両立させることが可能となります.
排出権取引制度には,過去の失敗例や経済理論から,「制度として成功するためのポイント」がすでに明らかになっています.日本がそのような事例から学ぶかどうかは疑わしいのですが,その話はまたの機会にいたしましょう.
わたしは,企業に対する排出規制措置としては,排出権取引制度を活用することがベストであると思っています.製鉄などの国際競争力の面で考慮が必要な部門に関しては,割当方法で対応が可能です.一方で,できるだけ取引の仕組みはシンプルにして,経済合理性を確保するようにデザインすることが可能です.
一方で,排出権取引は,たとえば家庭や運輸部門をカバーすることは容易ではありません(できないという意味ではありませんが,世界で経験がありません).これらの排出権取引でカバーしない部門は,炭素税でカバーするといいでしょう.この部門にはエネルギー多消費産業はありませんので,ピュアな炭素税を課すことが可能です.すなわち,経済効率性を最大にすることが可能です.
もうひとつの視点は,「部門間の公平性」です.
産業部門にだけ,規制を課そうとすると,「その他の部門の責任逃れ」という点で,不満が生じます.日本の各部門は,京都議定書目標達成にそれぞれ責任があるはずです.ただ,その責任の果たし方が異なっていてもいいでしょう.
産業部門は「排出権取引の規制を遵守する」という形で責任を果たし(外部からの排出権調達ももちろん利用可能です),その他の部門は,「炭素税のコストを支払う」という形で責任を果たせばいいのです.それでも産業界に不満が残るなら,排出権取引への参加か,炭素税の支払いかを選択制にしてもいいでしょう.
この場合,京都目標達成を,明確に産業部門とその他部門に分けることができます.そして,産業部門はキャップアンドトレード型排出権取引制度を導入しておけば,その部分の総枠の達成は担保されます(もちろん海外からの排出権購入も可です).
また,その他の部門からの炭素税の税収(の一部)を,その部門の目標超過分の排出権の海外からの調達に充てるようにデザインすれば,国全体で京都議定書の目標達成はオートマチックとなるわけです.国内CDMのような制度も工夫すればこれらに絡めるようにデザインできるでしょう.
このような仕組みはいかがですか?
[この文章は,ナットソースジャパンレター 2008年 10月号に寄稿したものに,少し変更を加えたものです]