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Last updated: 2009.11.27

地球温暖化/気候変動の脅威をふりかえる

昨今,鳩山政権の成立や,コペンハーゲン会議が間近に迫っていることなどから,排出削減の程度の議論が多く見られます.それらの議論において「なぜ温暖化対策を行う必要性があるのか?」という点が,どうしても欠けてしまっているでしょう.

さて,国内では民主党政権発足とともに,90年比25%の削減目標,国内排出権取引制度導入をコミットし,地球温暖化対策税も本格的検討が始まるようです.鳩山イニシアティブのデザインも必要ですね (わたしのPEARの 低炭素型エネルギー自立農村開発CDMなどが動きやすくなるといいのですが...).

そこで今回は,初心を振り返るという点でも,地球温暖化や気候変動の影響や脅威をどうとらえるか?という点を,わたしなりの視点で概観してみましょう.

気候変動は,現在から将来における問題であるわけですが,そのためには「過去の記録」を検討してみることが有効だと思われます.


過去1000年の記録から

下の図は,過去1000年間および今後100年間の排出シナリオ別地球表面 (1860年以前は北半球のみ) の気温変化を表したものです (ベースとなる図は IPCC 第3次評価報告書).「ほぼ安定した」状態がすくなくともここ一千年程度は続いてきたことがわかります (グレーは研究事例による評価幅).

Temperature

ただ,この「ほぼ安定」した中でさえ,スイスアルプスの氷河に村が飲み込まれたり,テムズ川やオランダの下線が冬の間完全に凍結したり,ニューヨーク湾が凍結したり,飢餓,疾病でアイスランドの人口が半減,グリーンランドのバイキングが全滅したなどのいわゆる小氷期のイベントが隠されています (これらは太陽活動および火山活動による可能性が高いことがわかっています(IPCC, AR4)).

その意味からも,今後予想されている「急速」かつ「全球的」な気温上昇は,それらをはるかにしのぐ (少なくとも地域的な) 社会的影響があると想定することが自然でしょう.


極端な異常気象に見舞われる世界

また,「平均気温変化」は,実は「異常気象の振幅」を増大させる傾向があります.異常気象は,いわゆるガウス分布にしたがって,ある程度の確率で起きるわけですが,地球温暖化は,そのガウス分布をシフトさせる効果があります.そうすると,いままで50年, 100年に一度の確率でしか起きなかった異常気象が,はるかに高い頻度で起きることとなります (異常気象が異常でなくなるという言い方もできます).台風などの熱帯低気圧の大型化,干魃,洪水,熱波など,それが「日常」となる世界を想像できますでしょうか?また,同じ100年に一度の確率の事象で比較すると,その規模は従来の異常気象をはるかに凌ぐ壊滅的なものとなるでしょう.

現在,気候変動に最も敏感でつよい危機感を持っている業界は,再保険業界です.実際,年々,異常気象による支払いは (社会の脆弱性という点もあり) 増加してきています (保険の対象外のダメージコストも多いようです).再保険業界が破産するということは,社会全体の破産を意味すると言っても過言ではないでしょう.


突然大きく変化してしまう気候システム

わたしがさらに大きなものとして懸念するのは,いわゆる「気候システムが突然変わってしまうこと」,すなわち abrupt climate change と呼ばれる事象です.われわれは温室効果ガスを大気中に排出し続けており,それはとりもなおさず,気候システムに一定方向から外力を加え続けていることを意味します.いまはまだなんとか気候システムは耐えていますが,ある日突然,気候が全く変わってしまうノという事象が起きる可能性があるのです.そうなるともう元へは戻りません.

実際,過去10万年程度のタイムスケールの中で,氷期においてダンシュガード・エシュガーと呼ばれる 1500年程度の間隔で,数年間程度で数℃から10℃程度のおそろしく急激な変化が起きたことが知られています (グリーンランドの氷床記録).さらにそれに輪を掛けたような ヤンガー・ドライアス,ハインリッヒ・ボンドと呼ばれるようなイベントも観測されています.このような事象は,非常にドラスティックないわば壊滅的な気候システムの変化であるわけですが,全球的な変化というわけではないようです (深層海流による熱エネルギーの「輸送=移動」に由来します).一方で,いまの気候変動は,全球的なエネルギーの蓄積が起きているわけで,これらの事象よりもさらに影響が大きくなっても不思議ではないと思われます.

これらの事象そのものが,いまの地球の状態で起きる可能性は低そうですが (かなり発達した北半球の氷床の存在が重要であったようです),重要なことは,気候システムは,「徐々に変化する」ものではなく,きっかけさえあれば,「突然変わる」という性質を持っているということです.人間社会では,バブル崩壊による株価の大暴落のようなイメージがわかりやすいでしょうか.その「ポジティブ・フィードバック」や「臨界点」に関する研究は,まだまだ未成熟な段階なのです (わたし個人はこの分野に興味があるので abrupt climate change の early warning シグナルや,気候システムの相転移のメカニズムの勉強をすこしずつしています).


わたしたちの意思決定において考慮すべき点

臨界点を超えてしまった abrupt climate change はもとより,異常気象が頻発する世の中になれば,生態系はもとより,人間社会も非常に大きなストレスを受けます.穀倉地域の降雨パターンが変わってしまって穀物がとれなくなったらどうなるでしょうか?大量の難民があふれかえり,紛争や戦争が起きる可能性もあるでしょう.

これらが確実なものとして (規模や時期などが) 予見されるなら,さすがに社会は対応をとろうとするでしょうが,残念ながら,さまざまな不確実性を伴います.このような不確実性の下でも,それなりの得られた知見をベースに,できるだけ危険回避・緩和行動をとれるかどうか?それは,われわれ人類の大きなチャレンジであるわけですね.

このようなことを念頭に置きながら,たとえば25%の是非を議論してもらいたいものです.



[この文章は,ナットソースジャパンレター 2009年 11月号に寄稿したものに,少し変更を加えたものです]



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