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Last updated: 2008.6.25
カーボンオフセットとは?
ご存じの方も多いとは思いますが,「カーボンオフセット」とは,ある主体が自分のCO2排出量を相殺する行為を指します.国や企業の「数値目標達成」のケースに用いられる場合もありますが,通常は,特に規制が課せられてないのも関わらず,ボランタリーに自己の排出量(カーボンフットプリント)を「なかったことにする」ために行うものを指します.
[マンガは川村美穂子さんの力作です]
規制遵守が主導してきた排出権市場に加え,自主的な「気持ち」をドライビングフォースにした新しい付加価値が生じてきたと言うこともできますね.わたしのPEARカーボンオフセット・イニシアティブ(http://www.pear-carbon-offset.org/)も,その付加価値をコアにし,ありうべき近未来社会の提案を行うために設立いたしました.
さて,消費者などがそのようなカーボンオフセットを行うにあたって,そのためのサービスを提供する主体を,カーボンオフセット・プロバイダーと称します.英国や米国はカーボンオフセット先進国で,環境オリエンテッドからビジネスオリエンテッドなものまで,数十ものプロバイダーが林立してきています(横並び評価をしている報告書もいくつかありますが,Tufts Climate Initiativeのものがもっとも参考になるようです: http://www.tufts.edu/tie/tci/carbonoffsets/).
カーボンオフセット・サービスは,目に見える商品やサービスではありませんので,きちんとしたものからかなりいいかげんなものまで,いろいろありうるでしょう(ナットソースジャパンレター,2007年11月号にもすこし書きました).英国では,このたび,政府DEFRAが,カーボンオフセット・プロバイダーに対して,Draft Code of Best Practices for Carbon Offset Providersをリリースしました ので,それをすこし考えてみましょう.
英国政府のコード
コードは,カーボンオフセット・プロバイ
ダーそのものの認定(accreditation)と,オフセットの原資となる排出削減クレジットの認定とに分かれます.
プロバイダーとしての認定に当たっての必要事項は,
一方で,クレジットの認定には
が用いられることが必要事項となります.VER(ボランタリークレジット)は認められません.
重要なことは,カーボン「オフセット」のためには,クレジットはキャンセルさせなければならず,英国の京都議定書目標に用いたり,EUA以外の国内削減活動をクレジットとして用いてはならない,という点でしょう.これは,環境十全性の点から当然のこととなっています(理論的にも正しいですね).日本では,なぜか日本の議定書目標達成に用いることをカーボンオフセットと称するプロバイダーがほとんどですが(環境省のカーボンオフセット検討会でも容認するとされています),それはすべて英国では認められません(カーボンオフセットの定義にそぐわないため,最初から眼中にないと言えるでしょう).
計算手法に関しては,消費者の直接のエネルギー消費活動にかかわるもののみ(交通や電力消費を含みます)が,認定されたオフセットの対象となっています.間接排出量は含まれていません.もっとも影響力が大きくむつかしい航空部門の計算方法に関しては,放射強制力への効果の扱いと,旅客機に積む荷物の扱いに関して,オプションが設けられていますが,それ以外は標準化されています.ちなみに,座席のグレードによる差異化も取り入れられています.
ここで注目されるのは,「活動ごと」にできるだけ正確に排出量=カーボンフットプリントを算定しようという姿勢です.これは「気づき」という点でも重要ですね.
オフセットサービスを完了すること=「クレジット調達+失効」に関しては,6ヶ月+5営業日中に行うこととされています.
消費者への情報提供としては,温暖化問題の重要性や,対策におけるカーボンオフセットの位置づけなどを行わなければなりません.
オフセットのプライシングに関しても,透明性の高い方法で示す必要があります.上記のタフツの報告書ではかなりプロバイダーによる差異が大きいようです.
また,認定されたオフセットに関しては,Quality Markを用いることができるとされています.
コードの役割の考察
Best Practiceに関するコード(規制)の導入は,消費者保護という観点から,望ましいものであるでしょう.
認定費用(初回100万円程度,毎年40万円強)が高いかどうか?という点は議論が分かれるかと思いますが,これはプロバイダーの規模によって差異化される可能性もあるようです.
ここで気になるのは,コードの位置づけです.革新的で野心的なことを行おうとしているプロバイダーの頭をたたく制度であってはならないと思いますが,そうなっているかどうかが気になります.
政府の行うべき部分と,民間の自発的な工夫などで行うべき部分の峻別が,明確になっていないところがあります.たとえば,LCAを用いた間接排出量を基準にしたオフセットも行いたいと思ったオフセット・プロバイダーは,認定されないと言うことでしょうか?たとえば,きちんとした説明責任さえ果たしていれば,拡張することもOKとすべきではないでしょうか?(この場合,利用可能なデータの範囲内で説明責任を果たしているかどうか?という点を認定の審査対象とすればよいわけですね)
特定の排出係数の申請にはひとつの排出係数あたり20万円強の審査費用が発生しますが,そのようなものを揃えるのは政府側の役割かもしれません.
日本においても,カーボンオフセット・プロバイダー協会(?)のようなものが作られる動きがあるようです.カーボンオフセットというサービス全体の信頼性を高めることは重要ですが,一方で,きちんとしたプロバイダーから「知見の持ち出し」が主で,そうでないプロバイダーが「ただ乗り」するための制度であってはならないでしょう.革新的で真似のできないプロバイダーの取り組みを抑えるような組織であってもなりません.いかにもありそうで怖いのですが...
[この文章は,ナットソースジャパンレター 2008年3月号に寄稿したものに,少し変更を加えたものです]