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Last updated: 2005.10.29 

将来の不確実性の理解について

温暖化問題は,京都議定書は発効したものの,まだ将来の不確実性は大きなものがあります.実際,企業において何らかの行動をとろうとした場合,社内的に説明できるほど確固とした将来分析ができないため,すばらしい技術や担当者のやる気があるにもかかわらず,行動に移れず,タイミングを逸している企業も多いでしょう.

ただ,不確実性の存在は,単にリスクという側面だけでなく,その性格や大きさ,確度などを推計できるなら,できない人に対して比較優位を保つことができるでしょう.

いずれにせよ,温暖化問題は気候変動枠組条約のできた1992年からすでに10年以上の年月が流れ,制度などをきちんとフォローしていくことはかなり困難となっています.意外なところに「落とし穴」あるいが潜んでいる可能性があるでしょう.一方で「機会」が隠れているかもしれません.

不確実性の例としては,(すでに知られるようになってきましたが)先進国の排出権取引などに関する適格性(=参加資格)などがあります.京都議定書の下では数値目標を持つ先進国は排出権取引を行うことが可能である(と思われています)が,実際は,そのためには「資格審査」をパスしなければなりません.将来のインプリケーションという意味では,先進国排出権の最大の供給元であるロシアとウクライナが,その資格審査にパスできるかどうか?という点が大きいでしょう(日本の資格審査もこれからです).

それでは,その資格審査の内容をある程度理解しなければ,これがどの程度の可能性をもつものであるか?という点を知ることはむつかしいかもしれないでしょう.これは議定書では第5, 7, 8条と呼ばれるかなりテクニカルな条項に関連し,マラケシュアコードにおいても,またその後においてもかなり細かな規定がなされています.結局のところ,その国のGHGインベントリー制度がきちんと機能するか?という点がボトルネックであることがわかります.

それでは,ロシアのGHGインベントリー整備の「現状」はどのようなものでしょうか?そもそもインベントリーのガイドラインとはどうなっているのでしょうか?資格審査とはどのようなものでいつ行われるのでしょうか?

実際,ロシアの現状でのGHGインベントリー整備状況はおさむいかぎりで,このままでは資格審査をパスできそうにありません.この資格審査とは,2007年に一斉に行われ,各国のGHGインベントリーがIPCCのガイドラインに則っているかどうかの専門家審査が行われます(ということは政治的判断が介入しにくいという点がありそうですね).そしてその最終判断はモントリオール会議で設置される遵守委員会が担うこととなります.

次にでてくる疑問は,それではロシアはその審査までに,試算をパスできる制度をそろえられるであろうか?という点でしょう.現在,そのために誰かがロシアをサポートしているのでしょうか?この点に関しては,現在,欧州委員会がICFというコンサルタント会社を使ってサポートしようとしている実態があります.それでは,その結果,適格となる確度は?などと疑念がつきません.パスできなかったら追試はあるか?などの情報も重要ですね.

加えて,もし適格となった場合,ロシアはどの程度の排出権を市場に供給するポテンシャルがあるのでしょうか?実際の「行動パターン」としては,そのうちどの程度市場に出すでしょうか?そもそも,ロシアの「誰が」そのようなことを考える/できるのでしょうか?そのための国内制度は?

などなど,そのような情報をある程度得た上で,さて,自分たちは,「いま」どのような行動をとるべきか?ということを考えることになるわけです.なかなかたいへんですね.

適格性の話は,数多くある不確実性のひとつであり,これひとつとってみても,国際制度面,実態面など,さまざまな情報がないと,適切な判断がむつかしいでしょう.もちろん,ある種の情報は「行動を採る上で必要な情報」でないことがわかるかもしれませんが(実際,いま動いている企業で上記の情報を的確に把握している企業は皆無でしょう),そのためにも,その不確実性に関してある程度の知識や分析を行う必要があるのではないでしょうか.

その他,「機会」という面でも,いままでに考えてもいなかったタイプのCDMで非常に大きなポテンシャルをもったものが隠れている...というような可能性もあるでしょう.中国でHFC 23タイプのプロジェクトが全部実現化したらどの程度のCERsを市場に供給できるであろうか?なども重要な情報でしょう.

このような点を「理解」するためには,

などがあることが望ましいでしょうね.

わたしのところでは,現在,(来年のはじめにかけて)そのような情報や分析を提供するようなスタディーを実施しようとしています.ご興味のある方は,ぜひ,活用なさってください.

もっとも,日本の企業にとっての最大の不確実性は,日本の国内制度がどうなるか?という点ですね.これが不透明なことによる機会損失の大きさを政府は考えたことがあるのでしょうか?

[この文章は,ナットソースジャパンレター 2005年10月号に寄稿したものに,少し変更を加えたものです]



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