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Last updated: 2005.10.29 

CDM登録申請への審査要請の内容を考える

最初のCDM登録申請がなされたプロジェクトであるインドおよび韓国のプロジェクトに対し,CDM理事会の3人から「まった」がかかり,次回のCDM理事会で審議されることになりました.今回はその(匿名の理事会メンバーからの)「理由」をみてみましょう.

なお,今回の登録申請は「はじめて」の登録申請であるため,CDM理事会としても未経験となっています.その意味で,learning-by-doingのプロセスであるということを,まず理解する必要があります.加えて,コスト効果性が非常に高いHFC 23破壊プロジェクトということもあり,(AM0001の件のように)バイアスがかかっていることも容易に想像されます.

さて,DOEからの登録申請に対し,CDM理事会メンバー3人以上もしくは関係締約国が「まった」をかけなければ,そのプロジェクトはCDMプロジェクトとして登録されることになるわけですが,その場合の「まった」をかける理由は,何に対するものでしょうか?

マラケシュアコードによると,これはvalidationがきちんと行われたかどうか?に対するものです.PDDの内容を直接審査するようなものではありませんし,たとえばODAが使われた場合でもそれが流用であるかどうか?を判断するものではありません.

ところで,とくにわたしのかかわった韓国・ウルサンのプロジェクトへの「まった」の理由を見てみましょう.

最初の委員の理由は,

(a) 京都議定書が発効していなければ,正式な議定書の締約国ではないため,たとえ関係国がすべて批准していたとしても登録申請はできない,

(b) (議定書の規制物質でない)HCFC 22に関する考察がなされていない(バウンダリーの選択の議論も含めて),

というものでした.最初の点(a)は,「それならそもそも登録プロセスを始めるな」と言いたくなりますし,(b)に関しては「承認された方法論」に従っているかどうかの指摘でない(「まった」をかける内容の指摘でない),と言うことができます.(b)に関しては,気候変動枠組条約・京都議定書のそもそも論にかかわる点でもありますね.なお,方法論AM0001に関してリバイズ要請が強引に通りましたが,上記の2プロジェクトに関しては元のAM0001を使うことが認められています.

二人目の委員の理由は,

(c) Crediting Periodの開始日に関する疑念

(d) 将来HCFC 22生産増の可能性が指摘されているが,それが生産設備増設なら,カットオフ条件が異なるべき

(e) 流量計を2つでその平均をとるとしているが,conservative側として低い方の数字をとるべき

というものでした.最初の(a)の点は,「HFC 23の保管」と「HFC 23の破壊」という2つの行為のうち,後者をプロジェクトのcrediting periodの開始日と定義している点への疑念です.方法論AM0001では,保管ではなく「破壊」行為をもって「削減」とみなしているので,疑念はあたらないわけですが,CDM理事会の「開始日」に関するあいまいな定義が,尾を引いているということでしょうか.(b)は,実際は生産設備増ではないので(既存生産設備の容量内です),疑念は当たりません.なお,カットオフを誤解している人が多いようですが,あれは「ベースライン排出量」を表す数字ではなく,「意図的な(本来廃棄されていないはずの)HFC 23の過剰破壊」を防止する要件です.

最後の点は,看過できない点ですね.方法論に指定された方法を用いているのに...という点以外に,conservativeという概念が,まるでわかっていない!ということです.本来,CDMでは排出削減量のアカウンティングにおいては,まず「できるだけ正確な」算定が行われるべきで,それでも残った不確実性の幅の中で「保守的な」数字を選ぶ,という考えのはずです.なんでも保守的でなければならない,のなら,どうして削減量をゼロとしないのか?などというばかげた意見が通る話となりますし,誰も正確な算定を行おうとしなくなります.このプロジェクト(とAM0001)では,流量計を2つ直列に並べることで,それぞれの持つ測定誤差をキャンセルさせる(理論的にはルート2分の1にする)という工夫をしているわけですが,そのような努力や工夫を否定する解釈になっています.

三人目の委員の理由は,一言で言えば

(f) CDM理事会の登録に関する判断のベースをここでいったん明確にしておくべき

という趣旨のようですね.

いずれにせよ,(承認された方法論を使っているにもかかわらず方法論の中身に関する疑念が出ていることが気になりますが)プロジェクトのvalidationへの点ではなく,もっと外側の枠組みの未整備や解釈が明確化されていない点に関するものでした.

現在,登録申請がなされているホンジュラスの小規模水力などは,ユニラテラルCDMになっています(途上国がCERを販売できるか?という点にもかかわるわけですね).ブラジルの廃棄物処分場のプロジェクトは,議定書発効を条件としたホスト国の承認レターしかありません.

これらの「あいまいにされていた」点が,今後のCDM理事会において(あるものはCOPマターであるでしょう),どう明確化されていくか?が見物ですね.


[この文章は,ナットソースジャパンレター 2004年11月号に寄稿したものに,少し変更を加えたものです]



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