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Last updated: 2007.07.07

日本の温暖化交渉の方向性

今回は,日本の2013年以降に対する国際交渉の方向性に関して,あえて「辛口」にprovocativeな批評してみましょう.日本政府の交渉スタンスは,役所によっても異なりますが,ここではそれらの差異を無視して,日本全体の課題としてみてみましょう.

なお,わたしはCOP 1より前のINC 10あたりから国際交渉をウォッチし政策提言などを行ってきましたが(その意味では日本では最古参となってしまいました),現在では以前ほど詳細に交渉を追っていません.また,近年は役所とのつきあいもエネ研・IGES時代より薄く,内部での議論の様子もよくは知りません.その意味で「外野」のたわごとと思っていただいてもけっこうです.ただ,逆に地球サミット以降の「大きなうねり」を,見失わないようにしているつもりです.

それではまず,日本政府内部では,京都議定書をどう評価しているのでしょうか?もちろん,国会の全会一致で批准しているわけですし,「京都」という名前をいただいているわけですね.(少なくとも2012年までは)とにかく遵守する,と宣言もしています(そのための泥縄的な準備に関してはここではあえて触れません).しかし,「内部評価」という点では,

京都議定書交渉は失敗であった.日本は大きな損失を被った.この轍を繰り返してはならない.

と思っているように見えます.さらにこれから派生して

京都議定書は,欠陥のある議定書である.2012年までは仕方がないが,それ以降はこのような議定書は廃止すべきである.

と聞こえてくるようです.セクター別原単位目標設定などの考え方をベースとしたアプローチは,その方向性にあるのでしょう.うがった見方をすれば,

京都議定書は,日本にとってマイナスであるから,日本にとって都合のよい形に「仕切り直し」したい.

という「本当の目的」を実現するために,

米国や途上国の参加がないと意味がなく,そのためには,京都型のキャップ・アンド・トレード型ではなく,(先進国も含めて)セクター別の原単位目標などのアプローチを選択すべき.

と主張しているようにも見えます.さらには,

その結果として,2013年以降の日本の排出目標は,実質的には第1期のそれよりも緩くなる.

という期待(目的?)が見え隠れするように外野からは見えるわけです.

さて,上記の見方が(部分的にせよ)正しいとした場合,それは国際的に通用するのでしょうか?折りしも,安倍総理は,2013年以降の枠組み形成に対して,日本がリーダーシップをとるべきであるとし,関係大臣に指示を出したとききます.

まず,不利益を被ったとする京都議定書の「欠陥」に関して考えてみましょう.最初の問いは,

欠陥があるとするのは,京都議定書の仕組み(キャップ・アンド・トレード+京都メカニズム)なのか?厳しすぎる日本の数値目標なのか?

という点です.後者に不満があるのだが,それをあからさまに言えないために,前者まで問題あり...という議論になってはいないでしょうか?

そもそも,国際協定とは,妥協の産物でしかありえません.誰にとってもベストな解ということはありえないわけです.気候変動枠組条約にせよ京都議定書にせよ,当時の交渉代表が必死の思いで,最終的には首相判断で合意したものです.そうやって,(もちろんそれぞれに不満な点はあるものの)それをベースにして,一歩ずつ前に進んでいくというのが,国際合意形成のステップであるはずです.逆に言えば,それを「ひっくりかえす」のであれば,それには非常に強力な「正当性」と,かなりの覚悟が必要となります.

現在,2013年以降の制度で,決定しなければならないことになっているのは,AWGのテーマである「京都議定書の附属書B(数値目標)の改正」のみです.議定書の「キャップ・アンド・トレード+京都メカニズム」という本体は対象ではなく,2013年以降の数値目標のみです.あくまで,「京都」議定書は2013年以降も継続することが前提です(このことすら,正確な認識がないのが事実ではないでしょうか.あるいは意図的に「ポスト京都」という表現がされているのでしょうか).

一方で,途上国もかかわるチャンネルとして,「ダイアローグ」も動いていますが,何らかの国際合意を行うこととはなっていませんし,2013年から途上国に何らかの義務的なものを設定できる可能性は(COPでの交渉や先日の環境相会合をみるかぎり)ほぼ皆無といえるでしょう.

このような状況下で,日本はそれでもあえて「京都議定書の中身」にまでメスを入れ,かつ途上国まで巻き込んだ制度を2013年というショート・タイムフレームで合意できると本気で考えているのでしょうか?

アジアパシフィック・パートナーシップというチャンネルは,気候変動枠組条約や京都議定書を補完するものであっても,代替するものではけっしてありません.

下手に動けば,京都議定書を日本(のみ)が破壊しようとするおそれもあります.日本のリーダーシップとは,世界全体で長年にわたって築き上げてきた(「気候変動枠組条約」+)京都議定書の枠組み自体を崩壊し,別の仕組みを組み上げることなのでしょうか?

ここで,日本の指向する「セクター別アプローチ」なるものと,他の国の指向するアプローチを考えてみましょう.

EUは,あきらかにキャップ・アンド・トレードを指向していますね.日本が頼みに思っている(?)米国はどうでしょうか?温暖化問題に嫌悪感をいだいているブッシュ=チェイニー政権は何をするのにも反対 ですが,米国国内はそれとは別の動きが出てきているのはご存じの通りです.いくつも提案されている連邦レベルの法案,州レベルで実施されている規制スキーム,民間の自主的なCCXなど,どれをとってもキャップ・アンド・トレードです.

振り返ってみると,もともと京都にキャップ・アンド・トレードを持ち込んだのは,米国クリントン=ゴア政権だったわけですね.その意味でも,温暖化問題に比較的積極的な政権になった場合,キャップ・アンド・トレードを指向しない...というのは,かなり無理がある期待でしょう.ついでに言えば,キャップ・アンド・トレード制度に不可欠なのは,厳格な遵守制度です.これが,COP 3以降に日本と米国(クリントン=ゴア政権)の交渉スタンスで,最後まで歩み寄れなかった点と言えるでしょう.

かたや,日本の期待する「キャップ・アンド・トレードは廃止してセクター別原単位目標設定というアプローチに変更する」ことをサポートする国があるのでしょうか?せいぜい豪州 あたりくらいでしょう.

EUも米国も,「排出権市場」を非常に重視しています.市場をもっとも活用できる制度が,キャップ・アンド・トレードなのですね.かたや日本は,排出権市場をいままで毛嫌いしてきました.ですので,原単位やセクター別というような目標設定方法にこだわってきたのでしょう.

また,途上国を何らかの数値目標のあるスキームに入れたいがために(これが「正当性」の根拠のように見えます),すでにキャップ・アンド・トレードがはいっている先進国までも,別の目標形態にする,なおかつそれによって日本の実質的な目標が緩くなる...のであれば,どの国のサポートも得られず,日本は孤立するでしょう.

もちろん,上記の議論は,かなり断定的な仮定に基づいていますので,実態とかなりの乖離があるかもしれません.

ただ,日本には,ひとりよがりではなく,国際的な「ながれ」を感じ取って,その中でスタンスを決めていってもらいたいものです.欧州の打ち出した「2050年にGHG排出量を半減以下にまでもっていく」ということは,もはやひとつの方向性となっています.日本は,このような長期的な目標に対しても,なにも確固たるスタンスを出していません.これは,国際交渉もそうですが,技術革新の担い手になるべき日本の企業に対して,欧州と比較して,不確実性という大きな足かせを課すことを意味しています.

日本「国内の常識」は,世界では通用しないことも多いのです.来年のG8で,日本丸はどこに行くのでしょうか?リーダーシップまでは望みませんが,他国から離れて,一国だけで漂流しなければよいのですが...



[この文章は,ナットソースジャパンレター 2007年 4月号に寄稿したものに,少し変更を加えたものです]



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