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Last updated: 2005.10.28 

世界最大の排出権のバイヤー

経済産業省の産業構造審議会は,「地球温暖化対策推進大綱の評価・見直しに向けた課題」をリリースし,7月22日までパブコメを求めています(http://www.meti.go.jp/feedback/).総合エネルギー調査会も「2030年のエネルギー需給展望(中間とりまとめ原案)」のパブコメを求めていますね(8月16日まで).

その「大綱の評価・見直しに向けた課題」の中で,注目されるのが,「3. (4) 政府の役割」と「4. 京都メカニズムの活用」でしょうか.この「課題」の内容に対するコメントは,みなさんがそれぞれ独自に行っていただくとして,ここではこのあたりを少し考えてみましょう.

まず,認識しておかなければならないのは,京都議定書の目標遵守という点で責任があるのは,もちろん事業者ではなく,国,すなわち政府です.言い換えると,その国際的な責任を果たすため,政府は民間企業やその他の主体に対し,各種の政策措置などを導入し,国全体として目標を達成しようとするわけです.

もちろん,それらの措置は,国として目標達成が見込まれるものでなければならないのですが,それでは,それらの措置が所期の効果があがらなかったらどうなるのでしょうか?日本政府は,政策措置の見込みの甘さを理由に,不遵守の汚名を甘受する(=ケツをまくる)のでしょうか?

もし,京都メカニズムがなかったなら,それもいたしかたないかもしれません.しかし,京都議定書には,国外から排出権などを調達することのできるメカニズムが用意されています.言い換えると,この京都メカニズムを用いて,「遵守を担保する」ことが可能となるはずです.すなわち,CDMなどに加え,少なくとも足りなくなりそうな分だけは「自動的に」海外から購入するような仕組みですね.

そのために必要となるのは,予算措置です(ところが「課題」はそのことに全く触れていません.財務省の態度だけの問題なのでしょうか).

わたしが政策担当者でしたら,企業などの排出権取引制度でカバーできる主体に関しては,早めにそのことをアナウンスし,CDMを含めた自らの排出権調達戦略を実施することを促します.そうすれば,企業は自主判断で,必要な量を社内で削減するか,(海外など)他の主体から調達します.原理的には,そのカバーした部分に関しては,排出量が「計算できる」わけです(企業が調達した排出権でオフセットした後の排出量ですね).

そして残りの部分に関しては,政府自らの調達戦略をたてる必要があります.

残りの部分とは,民生分門と運輸部門が主体ですから,これからも伸びることが予想されます.早めにきちんとした調達戦略をたてないと,あとであわてて購入しようとし,きわめて高い買い物を強要されるか,あるいは市場に排出権そのものがもうない...という事態も起こりうるでしょう.

もし,足下を見られ,高い買い物を(もちろん国民の税金を使って)せざるをえないこととなったら,その責任は誰がとるのでしょうか?早めに準備をしてこなかったお役人の人たちなのでしょうか?おそらく米国でしたら,訴訟問題になるでしょうね.

日本の場合,発電部門からの排出量の責任を誰がもつか?ということで異なりますが,企業の排出権取引制度でカバーできる範囲は,最大でも排出量のほぼ6割,少なければ4割以下となります.

したがって,政府が「直接に」責任を持たなければならない部分は,日本の排出量のほぼ半分程度でしょう.日本の排出量は,現在で15%くらい目標値からショートしています.伸びているセクターが対象ですので,政府責任の部分は,年間1億トン程度必要という計算になります(もちろん今後の排出量推移に依存しますが,いままであれだけ甘い見通しが続いたわけですから,そろそろ「現実」とのギャップを計算してもらいたいものです).

これには,いま民間企業が自主的に調達しているCERsや,Japan Carbon Fundなどは期待できないでしょう(JCFのJBIC/DBJ分は別ですが).民間企業は自分の目標を達成するためにCERsを調達しているわけですから.すなわち,民間企業と政府は競合関係にあるわけです.

この年間1億トン規模の排出権調達は,そう簡単ではありません.おそらく日本政府は世界最大のバイヤーになることは間違いないでしょう.すくなくとも,そうなる可能性(リスク)を排除した政策をとる(言い換えるとそのようなリスクを無視する)のであれば,それは政府が,現時点でとるべきであった自らの責任を果たそうとしていない,と見なされても仕方がないのではないでしょうか.(わかっていたのに)やるべきことをやっておかず,あとで「やっぱりだめでした...」というのは,あまりにも無責任な態度と,後世の人は評するでしょうね.

もっとも,これは企業においても言えることです.アカウンタビリティー(説明責任)の対象が,国民であるか,株主・顧客であるか,の違いでしかありません.

[この文章は,ナットソースジャパンレター 2004年8月号に寄稿したものに,少し変更を加えたものです]



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