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Last updated: 2005.10.24 

温暖化対策における「追加性」を考える

CDMの世界で,「追加性」は,非常に重要なポイントであり,(表現の仕方は異なる場合もありますが)しばしば論争のタネになります.

たとえば,日本は2回の石油危機を通して,世界最高水準の省エネを達成してきたというのは事実ですが, それはけっして温暖化問題への対処のために行ってきたわけではないわけですね.幸か不幸か, 日本のエネルギーコストが高いことも,温暖化対策のためにそのように人為的にしたわけではありません. そのように考えると,温暖化問題のため「だけ」に,「追加的」な対策をとってきたという例は,きわめて限られてくるでしょう.

実際,規制がない状態では,そのためのメリットが別途期待されないような場合,温暖化対策「のみ」を目的とした対策は,ほとんどの場合,採られないでしょう.

それでは,そもそも「追加性」は,必要なのでしょうか?

たとえばCDMの場合,そのプロジェクトが「CDMとならなくてもいずれにせよ実施されていた」プロジェクトの場合, もしCERが発行されれば,それはその分先進国の排出増となるため,地球全体でのGHG排出増につながります. したがって(あまり手続きを厳しくしすぎるとCDMそのものの数が少なくなる逆効果があるでしょうが), 追加性は,原則,きちんと評価しなければなりません.

一方で,全体の排出目標のある状況下(たとえば京都議定書のAnnex I)では,その目標を達成すること(のみ)が義務であり, 追加性は問われないことになります.言い換えると,その「動機」はともかく,「結果」として排出量が抑えられる(削減される) ことが評価されるわけですね(前回のGHGアカウンティングに関する文章をご参照下さい). もちろん,取引コスト的にも,その方がずっと低くて済みます.

地球温暖化問題への対処という大きな目で見た場合,努力に努力を重ねて,温暖化問題のためだけに1万トン削減することと,むしろ別の目的の付随効果として2万トン結果として減ったという場合では,当然,後者の方がベターなわけですね.

これは,柔軟性措置の活用(別の場所での排出削減),英国やドイツの排出削減(別目的行動の結果としての 排出削減)などの議論を行う場合にも,共通した論点です.

ここでは,日本がやってきたことを卑下するつもりは毛頭ありません.むしろ,再認識したのは,温暖化以外の「別目的」の重要性です.言い換えると,温暖化対策以外の目的をいかに実現するか?というコンテクストの中に,いかに温暖化対策をもぐりこませるか?が,「有効な」(結果としてGHG排出量を抑制・削減するような)対策を実施するということになるわけですね.

先日,見せて頂いたJICA課題別指針「地球温暖化対策」においては,それが持続可能な開発の達成への貢献というコンテクストの中で,副次的便益の具現化という表現でなされていました.その他,環境税などでは,(その善し悪しはともかく)税収の確保という(場合によっては本当の)目的などもあるかもしれません.これらは,その主目的自身の正しさがあるのであれば,むしろ推奨されることと言えるわけです.

一般には,省エネルギーを推進することで(省エネ型の経済発展のパスを選択することで),発展途上国や経済移行国は,エネルギーコストが低く,エネルギー安全保障面でも堅固な社会システムを構築することができるわけです.これらの「主」目的を念頭におきつつ,温暖化対策という側面を導入しないと,効果的な対策とはならないでしょう.

もっと長いタイムスパンで考えてみましょう.下の図は,IPCCの「シナリオ特別報告書」における,今後100年間の各種排出シナリオです(これに尽力された森田さんのご冥福をお祈り致します).

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注意しなければならないことは,ここでの各シナリオは,「とくに温暖化(のみ)を目的とした対策を採らないレファレンスシナリオ」です.言い換えると,たとえば世界の年間CO2排出量を5 G ton-Cに抑えるべし,という要請があれば,A1Bシナリオでは,「追加的に」 9 G ton-Cの削減(すなわち1/3にする)が必要となり,B1シナリオでは「追加的な」削減は必要ないということになります.これから言えることは,どのような「レファレンス社会」すなわち温暖化対策を意識しない状態での社会を「選択」するか?という点が,実は世界のGHG排出抑制には,キーとなるということです.

この話は,なにもmitigation(排出削減系)の話ばかりではありません.Adaptation(気候変動への適応)の場合には,より顕著です.すなわち,たとえば高潮への対応は「いずれにせよ」行わなければならないことですが,温暖化対応を加えることで,その対策を実施しやすくなるわけです.生態系の変化による病虫害対策,干ばつへの対応,熱帯性暴風雨への対応など,ほとんどすべての適応措置は,「いずれにせよ実施しなければならない対策」でもあり,これらの目的を,温暖化目的を導入することで,さらに実現しやすく(あるいは強化する)ことができるわけです.

[この文章は,ナットソースジャパンレター 2003年 11月号に寄稿したものに,少し変更を加えたものです]



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