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Last updated: 2003.08.13
企業からの GHG 排出量のアカウンティング方法が,ようやく注目され始めてきています. 国際的には,WBCSD/WRI による GHG Protocol Initiative (http://www.ghgprotocol.org/) による 標準化された手法の開発が,もっとも詳細に検討されたものといえるかもしれません (今年末の COP 9 で 最終報告書が発表される予定です).環境省が,それをベースにした報告書も作成しています.
今回は,この 企業からの GHG 排出インベントリー作成を,GHG Protocol (Corporate Module) の成果を念頭に置きながら, 「自主的報告」と「排出規制下」の 状況の差異を明確にしながら,考えてみましょう.
一般に,国内排出権取引制度を機能させるための必要条件は,各規制主体からの排出量が, 信頼できる水準 (質) で決定されることです.これには,標準化された方法論という形での 制度的バックアップが不可欠ですね (規制対象外を プロジェクトベースで取り込むことも可能です. 京都議定書では CDM ですね.これも方法論が重要になります).
一方で,GHG Protocol は,そのまま 国内排出権取引制度 (あるいは 自主的な場合も含んだ ある種の規制フレームワーク) で使うというより,むしろ,(政府によるプログラムに依存しない形の) 企業からの自主的排出量 測定・報告用に 作成されています.これらは同じようでありますが,概念的に 大きく異なる部分も持っています.
GHG Protocol の内容をすこし考えてみましょう.企業からの排出量とは何か? を考える場合,GHG Protocol では, たとえば企業会計のように,ビジネスの実態に即したバウンダリーを設定することが望ましいとし, その一例として,ひとつの企業内排出すべてを含むことはもちろん,子会社,関連会社の排出まで カバーすることを 推奨しています (子会社,関連会社の排出は,コントロールの度合いや株式保有比率などで分ける という例が示されています).
一方,ボランタリー参加型プログラムである EPA の Climate Leaders Initiative では,GHG Protocol の手法を ほぼそのまま用いています.しかし,GHG Protocol の場合にあいまいであった (というよりも 指定する立場になかった) バウンダリーの閾値を,ある値 (株式保有率の 10%) に設定しています. やはり GHG Protocol の手法を大きく取り入れていますが,規制色が強い 英国の排出権取引制度の場合では, 規制単位は,ひとつひとつの施設であり,企業の排出が全部カバーされているわけではありません.
一般に,規制フレームワーク下の場合,報告する仕方に任意性があってはなりません.言い換えると, きちんとその考え方が,規制当局から示され,どのような扱い方をするかどうかが 規定される必要があるわけですね.
特定の規制フレームワークを指定しない GHG Protocol の考え方は,多くの規制フレームワークを包含可能である ということではありますが,必ずしもそうでないという場合も考えられます.たとえば,工場のシャットダウンは, 排出量削減とみなさない という考えを GHG Protocol では採用していますが, 京都議定書では (たとえ途上国に工場が移転するような場合でも) Annex I 国内での このような場合は 排出削減として評価されます.一方で,GHG 規制を遵守するために工場を閉鎖する, あるいは アウトソーシングが行われるといった「意志決定」が行われるケースも 想定できなくはないですから, 必ずしも GHG Protocol がリーズナブルであるとも限らないわけです. これも 一種の additionality 的な判断に関する点でしょうが,京都議定書では それを回避する一方で, hot air を (ある意味で) 容認しているわけです.これは,実施可能性をみながら, 制度デザイン上の選択すべきポイントといえるかもしれません.
より政治的な話が かかわってくる 初期割当問題では,たとえば,grandfathering と呼ばれる 過去実績をベースとした割当を行うような場合で,新規参入者にも排出割当を行うべきである という意見が多いようですね. その一方で,新規参入の場合と,企業が工場を建て増しする場合と,原理的に同じではないか? という考えも, ある意味でリーズナブルな側面があるでしょう.
いずれにせよ,このような点に関しては,特にプログラム的に指定されていない ボランタリーな報告制度であれば 確定する必要性がないかもしれませんが (時間的一貫性は保つ必要性があります),規制フレームワーク下の制度においては, 任意性がないように「定義する」必要性があります.そして,いったん定義されれば,それに基づいて行われることが 「正」となるわけです.
たとえば,GHG 排出量アカウンティングで,計算の手法が 排他的に「規定」されたような制度では, より精度の高い手法を行うことができたとしても,その手法で測定することは誤りであるわけです. 言い換えると,ボランタリーな制度における「誤差」とは,「真の値」からの誤差を意味するのでしょうが, 規制フレームワーク下の誤差とは,「その規制フレームワークで規定 (定義) された方法で計算」した場合に生じる誤差 ということになります.違いがおわかりになりますでしょうか?
もっとも,CDM や IPCC GHG インベントリーガイドラインのように,より精度が高いということを論証できるなら その手法を用いることができる,とするような規制フレームワーク手法の規定も存在し, そのような場合には,より柔軟性の高い手法が,きちんと規定されていることとなりますね.
今後,日本において,国内排出権取引制度導入にあたっての議論が大きくなってくるでしょう. その場合,初期割当方法などのポリティカルな点が注目を集めるでしょうが,現実問題として モニタリング手法をどのように設計できるか? という技術的点は,(隠れた) 非常に重要な点となります. 精度の高い (言い換えるときちんと定義された) モニタリング手法がなければ, 制度はそもそも機能しないわけですから,この点だけから,導入のタイミング,カバレージ,形態などに関して, かなり「絞る」ことができることになります.
[この文章は,ナットソースジャパンレター 2003年 8月号に寄稿したものに,少し変更を加えたものです]