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Last updated: 2005.10.29
先日,第15回CDM理事会の傍聴と,理事会主催のJoint Workshopに参加してきました.Joint Workshopとは,理事会,2つのパネル,方法論デスクレビューアー,OE認定の評価チームメンバー,OEおよびその候補 によるワークショップです.
今回は,consolidated methodologyや,ワークショップでの議論において,まだまだ専門家の間でさえ理解が足りないな...と感じた点のうち,ここでは「追加性の論証」という点と,「ベースラインシナリオの同定」という点に関して,その差異を明確化してみましょう.
「追加性の論証 (demonstration of additionality)」とは,そのプロジェクトがCDMとならなかったら,実施されなかったであろう,ということを論証するものです.すなわち,フォーカスを当てるものは,基本的には当該プロジェクトであるわけですね.
追加性が論証されたならそれで十分でしょうか?そのプロジェクト自体は実施されないわけですが,その「代わり」に,何が実施・実現されたか?という点に関しては,「追加性の論証」だけでは答えを出してくれません.その「代わり」のシナリオが,すなわち「ベースラインシナリオ」に他ならないわけです.
すなわち,「ベースラインシナリオの同定 (identification of baseline scenario)」の方法が,必要となります.追加性の論証方法だけでは,ベースライン方法論としては不十分であるということです.
一方で,ベースラインシナリオが同定されたなら,追加性の論証はもう必要ないのでしょうか?その答えは,ほぼYESです.追加性とは,別の言い方をするなら「ベースラインシナリオ≠プロジェクトシナリオ」です(正確には ベースライン排出量>プロジェクト排出量).したがって,ベースラインシナリオが同定され,それがプロジェクトシナリオと異なったなら,それはすなわち追加性があると言うことができるわけですね.
振り返って,ベースライン方法論とは?という点を考えてみましょう.その中心的役割は,ある種のプロジェクトを実施しようとする場合(これがプロジェクトシナリオですね),それがCDMとならなかったら何が実施・実現されていたか?(これがベースラインシナリオです)を,いかにして求めるか?というステップを示すということでしょう(これが「方法論」です).
別の言い方をすれば,いくつかの「前提条件」(これが適用可能条件です)を設定し,その条件の下で,論理的に,(プロジェクトシナリオを含む各種シナリオの可能性を排し)ベースラインシナリオを唯一のものとして同定する各種手続き(方法)を記すことが,その最重要課題となるはずです.
そしてその後に,同定されたベースラインシナリオの排出量を算定する数式での表現を求めることになります(ベースラインシナリオが唯一に決まったとしても,その数式表現は一つとは限りません).
以上が,「追加性の論証」と「ベースラインシナリオの同定」に関する理論的整理で,よく考えれば,きわめて「あたりまえ」のことです.ところが,実際には専門家の集団であるはずのメソドロジーパネル自身も,よくわかっていないようなのです.
たとえば,現在,パブコメにかかっている「追加性の論証に関するconsolidated tool」には,「ベースラインシナリオの同定」は含まれていません.その一方で,このツールが挿入されるconsolidated methodologiesに,ベースラインシナリオを同定するステップは記されていないのです.
廃棄物埋立地メタンに関するconsolidated toolでは,なんとapplicabilityに「ベースラインシナリオは...」という条件が入っています.これは明らかに論理矛盾です.適用可能条件とは「現実世界」に設定するもので「実際にはけっして直接観測されないベースラインシナリオ」に対して設定すべきものではあり得ません(上記のワークショップでメソドロジーパネルのベッカー議長には解ってもらったと思うのですが...).また,この方法論の中には,やはりベースラインシナリオを同定するステップはなく,たとえば廃棄物をコンポスト化するというシナリオも代替オプションとしてありうるはずですが,その検討はカバーされていません.
電力グリッドへ再生可能エネルギー電源を接続するconsolidated methodologyにおいても,排出削減量を「計算」する手法は記されていますが,肝心のベースラインシナリオを同定するステップはありません.たとえば,代替計画としてディーゼル電源を用いたり,DSMプログラムを用いたりするようなケースを扱うことはできないのです.すなわち,論理的に不完全と言うことですね.
このような論理的欠陥は,いずれは(おそらく近い将来に)理解され,修正されていくとは思いますが,日本から提出される方法論は,これらの論理的不完全性を持たないような「高品質」で「スキのない」方法論でありたいものです.
[この文章は,ナットソースジャパンレター 2004年10月号に寄稿したものに,少し変更を加えたものです]