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Last updated: 2005.10.28 

CDM方法論の理論的整理 I

ようやく軌道に乗ってきた感じのするCDM方法論の承認プロセスですが(あいかわらず順調に遅れてきていますが...),ここでいったん立ち止まって(とくにベースライン)方法論に関して,その理論的整理をしてみましょう.理論がわかっていれば,理解はより進みます.

まず,方法論とは,もちろん当該プロジェクトを念頭に置くものの,一般化されたいわば仮想的なプロジェクトを対象とするものです.そして,その仮想的なプロジェクトに関して,追加性を含めた排出削減量をどうやって求めるか?を記述するわけです.

そのためには,その方法論が適用できるプロジェクトを「言葉で」説明する必要があります.箇条書きにしてください.なお,ここでは固有名詞を使ってはいけません.方法論は,「似たような」プロジェクトに適用されるものですが,その「似たような」を,明確に定義するわけです.そして,これがその方法論の「適用可能条件(applicability conditions)」となります.過不足がないようにしましょう.

ベースライン方法論は,大別して2つの部分に分かれます.すなわち,

1. ベースラインシナリオの同定,

2. ベースライン排出量を数式で表現

です.この違いを明確に理解してください.

前者は,たとえば規制の有無や経済やバリアなどのシナリオ分析を用いることで行うことができ,「追加性」の論証を含みます (論証と言う表現は正しくないかもしれません.正確には,そのようなシナリオに論理的に帰結できるように適用可能条件を設定する, というべきでしょうか).シナリオ分析の場合,現状が継続するというシナリオと,プロジェクトシナリオそのものをオプションの中に含む 必要があり,その中から(適用可能条件を用いると)論理的にベースラインシナリオがユニークに決定される(ように構成する)わけです. もちろん,ベースラインシナリオとプロジェクトシナリオは異なったシナリオである必要があります(これが追加性ですね).

後者は,その同定されたベースラインシナリオの排出量(ベースライン排出量)を,測定できるパラメタで数式表現するということです. たとえベースラインシナリオがひとつ同定されたからといって,それを数式で表現する方法は唯一ではありません. また,意識していただきたいのは,ここで用いられる実測するパラメタは,「プロジェクトシナリオ」のパラメタということです. ベースラインシナリオのパラメタではありません(お分かりになりますか?).

たとえば,廃棄物埋立地メタン回収プロジェクトを考えてみましょう.規制などを考慮した結果,ベースラインシナリオは, 現状(そのままメタンが放出されている状態)が継続するというシナリオになったとしましょう. その場合でも,それを表現する方法はいくつかあります.一例は,プロジェクトシナリオにおいて回収したメタンを, ベースラインシナリオにおいて放出されていたメタン量とする方法です. しかしよく考えてみると,「回収する」という行為そのものが土壌の嫌気条件を変更する可能性があるため, これがどの程度いい近似になっているかは自明ではありません. 一方で,いくつかのパラメタを用いたメタン排出を表す数値モデルを用いるという方法もあります. どちらがベターであるかは,一概には言えません.

さらにプロジェクトが複雑になってきた場合,シナリオを構成する要素に分解し,それをモジュール化して独立させて考えることも可能です.

たとえば,上記の廃棄物埋立地から回収したメタンを用いて発電しグリッドに売電を行う場合, その部分は普通のグリッド連系再生可能エネルギー発電プロジェクト同じです(ただしプロジェクトの追加性を議論する場合, このような一要素を独立したものとして扱うことはできません).したがって,Operating MarginかBuild Marginか?という議論が可能で, たとえばOperating Marginであったなら,そのマージナルな電源が何であるかをそうやって同定し,それをどう数式で表現するか? という議論となるわけです.

上記の理論的整理は,実はきちんと理解できている人は,専門家の中でもまだまだ少数のように見えます(これでいいのかな?). しかし,いったんきちんと理解すれば,方法論作成において,小手先の技術の使い方を知っているだけの場合と比較して, とくに応用問題となるような場合に,大きな力を発揮するでしょう.腰を落ち着けて,じっくり考えてみてください.

[この文章は,ナットソースジャパンレター 2004年3月号に寄稿したものに,少し変更を加えたものです]



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