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Last updated: 2002.09.01  

温暖化防止は大局的に考えるべし
  ― 電気は「問題点」ではなく「解決策」である

要約

温暖化対策には省エネが必要だが,あらゆる形態のエネルギー消費を単に減らせばよいというものではない. まして「マイナス 6% への数合わせ」だけではどうにもならない.肝要なことは,現在のエネルギー需給システムを, 今世紀後半までに,CO2 を出さない「持続可能なエネルギーシステム」に 「発展」させることである.電気はその大本命として大切に育てねばならない. これを具体的な政策に反映させるにはどうすればよいか検討しよう.

大局を見よう

エネルギーシステムからの CO2 排出が大きいという理由で, エネルギーシステム自体の発展を抑制しようとする考え方がある.しかし,これは誤りである.

今後,世界人口は倍増し,途上国も豊かになる.温暖化防止のためには, 今世紀後半には日本は CO2 排出を 1/4 ないし 1/10 ― できればゼロ ― にしたい. 「数値目標達成=全部門でとにかく削減=今日の排出構造の比例的縮小」のみ... という創造性を欠いた政策では, このような大変革は覚束ない.

重要なことは,エネルギーシステムが持続可能なものになるように「発展させていく」ことである. 温暖化防止のためにはドーンと大きい技術変革が肝要であり,ちまちました対策だけでは,長い目で見て失敗する. そして,これをリードすることは,技術大国である日本の役割として相応しい.

温暖化問題を含めて,環境問題への対応としては,「節約」という道徳が強調される.これも勿論必要である. どのような環境政策を打つにしろ,国民の支持なくしてはありえない.しかし, 道徳をどのように現実に移すかは冷静に考えねばならない.

現実を観察すると,エネルギーに要求される属性は高度になる一方である.エネルギーは,より便利に, クリーンに,かつ安全になることを要求されつづけてきたし,これからもそうだろう. この上,さらに温暖化防止にも対応しなければならない.さて,そんな夢のようなエネルギーシステムは 構築できるのだろうか?

可能である.電気はその大本命だ.人類の福祉向上に貢献し,温暖化防止に寄与するエネルギーシステムは 十分に実現可能だ.電気は最も質の高いエネルギー媒体である.21 世紀の後半には, CO2 を発生しない形で電気と水素を作り,それを利用するようになるだろう. よく水素ばかりが強調されるが,じつは電気は水素にひけをとらない強力な候補であるし, 電気分解で水素をすぐ作れるから,水素との相性もよいのだ.

以下,この道理を説いていこう.電気は温暖化防止の解決策であり,人類の福祉向上のために, 電気へのシフトは歴史的必然として続く.温暖化防止政策はこの大局に則って設計していかねばならない.

電気: 温暖化問題の解決策

電気は温暖化における「問題点」ではなく,むしろ「解決策」である.供給側においては, CO2 を殆ど排出しない発電システムの構築が可能であり, かつ,需要側においても機器効率が高いからである.

発電技術としては,再生可能エネルギー,CO2 回収貯留, 原子力などがある.再生可能エネルギーは日本ではそれほど使い出が無いかもしれないが, 平坦な土地が沢山ある世界全体でみれば,かなり有望である.CO2 回収貯留技術と いうのは,化石燃料燃焼から出た排煙を地中や海中に閉じこめることで温暖化を防ぐという優れもので, 現在開発途上である.原子力はおおむね安全で実績もある.ただし何かしら事故がおきたときが心配である ということで,それを選択するかどうかは社会全体で判断しなければならない. いずれにせよ,こういった技術によって,CO2 を出さない発電が可能になるだろう.

エネルギー消費側はできるだけ効率的に使えばよい.生活様式の見直しなども必要ではあるが, ここでも技術が大活躍する.電気を使うと発電ロスがありエネルギーが無駄になるというが, これは一面的な見方である.実際には電気は消費段階での効率が高いので, 総合的に見ればかえって効率が高いことが多い.冷暖房ではすでに成績係数が 5 のものが市場に出ているが, これは効率が 500% であるという意味である.電気自動車の効率はガソリン自動車に比べて 3 倍高い. いずれの場合も,発電によって起こるロスを補って余りある.電気カーペットなどのキメ細かいサービスも, 部屋ごと暖房するよりもだいぶ節約になり,省エネにおおいに貢献しそうだ.

電気へのシフトは歴史的必然

さて電気が温暖化防止のために寄与するとしても,実際にはそれだけ質の良いエネルギーを 得るためにはコストがかかるから,なかなか実現しないのではないかという意見もあろう. しかし,必ずしもそうではない.

電気の利用が進むことは歴史的趨勢であり,それが今後も継続することが歴史的必然である. こういうと何やら怪しい予言者めいているが,以下に技術史として説明しよう.きっと納得されるはずである.

まず電気の特徴を押さえよう.電気の利点は,便利,クリーン,かつ安全な良質のエネルギーだということだ. 電気は他のエネルギー利用形態と違って,家庭や街中で燃料を取り扱わないからである. 燃料は発電所で燃やすことになるが,このときも,従来型の環境問題に関する限りは, 多くの環境技術において大気汚染(煤塵,SOX,NOX ), 排水処理などについても対応技術が満足いく水準まで発達してきた.他方で電気の欠点は, エネルギー転換・送配電などのインフラを必要とするために,熱量あたりのコストとしては 他のエネルギー源に比較して高いことだ.

エネルギー利用の電気へのシフトが進むかどうかは,この利点と欠点のバランスで決まるわけだが, 大局的に見てどちらが勝っていくのだろうか?

過去をひもとく.統計を調べると,電気の一人あたり消費量もエネルギー全体に占めるシェアも, 長期的趨勢としてどんどん増えてきたことが分かる.この傾向は,世界中いつでもどこでも, 普遍的に観察できる.時間の経過とともに所得が上昇して電気代や機器代を払えるようになるし, また,電気機器の研究開発が進み,どんどん安価になっていく.電気には,便利,クリーン, 安全という特徴があるから,電気を利用できるものなら利用したい. これは家庭だけでなくオフィスビルでもそうだし,産業部門も加工が高度になると電気の出番が増える.

この長期的趨勢はよく研究されている.エネルギー利用形態は,発展段階に応じて,ごみ,木材,灯油,ガス などの直接燃焼から,最後は電力といった順に,所得が上昇するにつれてエネルギー消費がシフトしていく. このようなシフトを,米国の Sathaye らエネルギー政策の専門家は「エネルギーラダー」と呼んで研究している. ラダーとははしご...であり,「はしごを登るようにして,質の高いエネルギーにシフトしていく」ということである.

勿論,電気以外にも CO2 を含めた環境負荷が非常に少ない エネルギーシステムを構想することは可能であるし,実際にはさまざまなエネルギーの組み合わせになっていくだろう. それは水素燃料電池かもしれないし,バイオマス起源の液体燃料かもしれない.

しかし,どのようなエネルギーシステムを構想しても,今世紀後半の「持続可能なエネルギーシステム」を構想するとき, 電気が主力になることは間違いないし,これを否定するシナリオは見たことがない. そして,電気に関する技術は,夢物語ではなく,今日すでに実現されているか,あるいは開発が進んでいるものが多い. 「電気を主力とした持続可能なエネルギーシステム」は,現実的な解決策である. このことは,あまり注目を集めてこなかったが,社会全体として認識を共有していく必要がある.

数合わせだけならサルでもできる

足元に話しを移そう.温暖化対策を進めるにあたって,今ある大きな制度枠組みは京都議定書である. これにはどう対応すればよいだろうか.単に CO2 削減の 数値目標に合わせるだけであれば,わりと簡単に想像できる.

例えば,発電を石炭から天然ガスに切り替え,素材産業を外国に追い出してしまえば, おそらくそれだけで数値目標は達成できてしまう.

しかし,これには致命的な欠陥がある.それが地球規模で見て温暖化防止になっていない ― つまり数合わせ以上の意味が無いということだ.

発電を石炭から天然ガスに切り替えることが,本当に地球環境保全になっているかどうかは簡単ではない. 効率が低い老朽石炭火力はともかく,建てたばかりの新鋭発電所まで対象にすることは, コストがかかるだけで,効果は殆どないだろう.

温暖化防止は世界的な問題である.日本の石炭火力の大半は効率も高く,環境保全設備も万全だ. 石炭を世界のどこかで燃やすなら,米国や中国ではなく,日本で燃やすことが一番よい. 他方で天然ガスについてみれば,日本では液化してインドネシアあたりから運ばねばならないが, 欧米ではパイプラインで手に入るから,どこかで天然ガスを増やすなら,欧米のほうがよほど安価にできる. 大局的視点でみると,日本の新鋭火力で石炭を減らし代わりに天然ガスを増やすということは,全くあべこべな政策になる.

また日本が液化天然ガスを買い付けを必要以上に増やすことが,アジアでの都市ガスの普及を妨げることに ならないよう配慮も要る.天然ガスはただ発電するにはちょっと勿体無いぐらい良い燃料である. それをアジアの都市ガスとして使うと,公害改善にとって非常に有益なのだ.それを日本が発電所で 燃やしてしまうことが,果たして良いことかどうか,よく考える必要がある.天然ガスも有限な資源である. もっともよい使い道を考えねばなるまい.

似たような「あべこべ政策」として,「素材産業を追い出す」がある.

素材5部門(製鉄,製紙,化学,セメント,非鉄金属)は,現在の日本の CO2 排出 の 3 割を占めている.これらの部門からの排出は,粗鋼,エチレン,クリンカなどの基礎的な素材生産の多くを アジア等からの輸入に切り替えることによって素材製造工程からの排出を削減し, 短期間で大幅に「削減する」ことが可能である.

しかし,これは世界的な意味での温暖化対策と無縁なことは明らかである. アジアから輸入すればアジアでの排出がその分増えるだけだからだ.

それよりも,日本において「一貫した物質リサイクル・エネルギー高効率利用システムの開発」を行ない, それを世界のテストケースとすることを目指すべきであろう.日本が温暖化対策における責任を果たすためには, 素材産業を海外に追いやるのではなく,将来の世界標準となるクリーンな素材産業を育てるべきである.

発電を石炭から天然ガスに切り替えること,素材産業を追い出すこと,この 2 つは,費用負担をする人さえ現れれば, やってできなくはない.何よりも,排出削減量をきちんと読むことができるので, 京都議定書の数字が頭にこびりついている人には魅力的である.

何かの手段でこのための費用さえひねり出せば,京都議定書の数値目標達成を安直にできるかもしれない. しかし,これは温暖化防止という本来の目的に寄与しないという致命的欠陥がある. そんなことをしてまで数値目標の墨守をするべきではなかろう.

電気を育てる温暖化防止政策のあり方

さてそれでは,どのような政策をとったらよいのだろうか.国際的,国内的な制度の大枠については 先月までに議論してきた.ここでは,技術の選択という観点から述べていこう.

短期的な排出削減政策の意義と限界

温暖化対策制度は,短期的(2010 年程度まで)な温室効果ガス排出削減になりがちである. さて,長期的視点からはクリーンなエネルギーシステムの発展が重要であるとすれば, このような政策には全く意味がないのだろうか.

決して,意味が無いわけではない.長期的なことだけを言ったのでは政治的な真実味に欠ける. 短期的な排出削減を打ち出すことは,政治的な勢いを維持し,企業行動や消費者行動に影響する という重要な役目がある.国として温暖化防止という姿勢をきちんと打ち出すことがなければ, 技術開発一つをとってもなかなか進まない.このため,政策がある程度短期的になることは止むを得ない.

ただし,限界をわきまえねばならない.とくに,政策が短期的だと,目先の利害調整が先にたつので, どうしても「あらゆる形態のエネルギー消費を少しずつ減らす=横並びの排出削減」になってしまう. 今のところ,電気もこの一部になっている.本来は長期的に育てるべきところは育てねばならない. 省エネなど必要な手を打つのは勿論のことだが,電気利用を促進することで,石油ボイラなどの 他の形態のエネルギー利用を大幅に減らすことができる.この認識を大事にせねばならない.

なお悪いことは,「横並び削減」をかかげていても,細かい部分の政策には実効性が期待できないことから, 「国全体としての数値目標」という圧力が存在するなかでは,結局は「やりやすいところ・ 目立つところからの排出削減」になりがちなことだ.民生部門や運輸部門での排出削減は難しい. これに失敗した場合に,それが発電部門へのしわよせとなり,結果として電気利用が抑制されることに なってしまうとすれば,それは最悪である.電気を用いずして,何を持続可能なエネルギーシステムの根幹に据えるのか?

さて,以上は決して手前ミソの議論ではない.実際に,温暖化対策としての電気の役割を示唆する研究事例がある. IEA の世界エネルギー見通しでは,日本など(正確には OECD 太平洋諸国)における京都議定書への対応を分析している. そこでは,CO2 排出を経済合理的に削減する場合, 熱需要部門でガスから電気への代替が起きる結果として,「電気の需要は増える」としている. このことは,温暖化対応政策において,電気が他エネルギー需要を代替する可能性を残す必要を示唆している. 逆に言えば,電気利用を抑制するような方策は,温暖化対策としてむしろ逆効果になりかねないことを示唆している.

筆者が性急な排出権市場制度導入に反対するのも,このような観点からである. 国際的な市場が未整備のまま,国内で排出量の総枠を定めてしまえば,それは発電部門や素材生産部門に対する やみくもな排出削減圧力になる.その結果は,前章で述べたような「数合わせ」的な手段の選択になるだろう. これでは日本からの排出は減るが,本来の地球温暖化防止という目的に合わない.

地球規模で見て本当に意味ある政策は,国内での省エネ助成措置を強化すること, 京都メカニズムによる国際的取組みを強化することの2つである.

機器の効率向上も意味ある政策であるが,ほどほどで止めておかないと,逆効果にもなる. 例えばエアコンは,現在のトップランナーは成績係数が 5 ― 効率が 500% ― である. ただ,そこまでいかずとも,成績係数が 3 程度(効率が 300% 程度)でも,安く購入できるようになれば, 灯油のストーブなどを代替して普及する.これは総合的にみてずいぶん温暖化防止に寄与する. 効率の低いエアコンを市場から締めだすのは間違いだ.あまり分野を特定して機器効率向上を 極端に追い求めるべきではない.電気を使う機器であるときには,それが電気機器としては低効率であっても, 他エネルギー機器よりも高効率である場合もある.この場合は「低効率エアコンの普及促進」が正解になる.

* * *

あわてて日本の CO2 排出を減らそうとするあまり, 地球温暖化の解決策である電気を嫌うような政策は,「地球より数字を可愛がるヘボ将棋」である. これでは温暖化防止という目的は果たせない.大局をきちんと見据え,育てるべきものを育てねばならない

参考文献

杉山大志,「地球環境と電力化」電力中央研究所研究報告 Y00005.

[日工フォーラム社 「月刊エネルギー」 2002年 6 月号(ドラフト)より]



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