Upper Image
Climate-Experts Logo

ウインドウ内の余白部分を左クリックすると 【メニュー】 がでます. あるいは ページ下の リンクボタン をお使い下さい.
Netscape 4 の場合,再読込ボタンが機能しないことがありますが,その場合 url 表示窓をクリックし, Enter キーを一度打って下さい.

Last updated: 2010.01.01

Copenhagen会議の結果を踏まえて

コペンハーゲン会議が終了しました.

3万人を超える人,100カ国を超える首脳が集い,議長国であるデンマークは Hedegaad議長や 引き継いだ Rasumusen首相が最後には降りてしまう... など,いろんな意味で,前代未聞の会議でした.

新聞などの報道でもご存じのように,2つの交渉プロセスである AWG-KP と AWG-LCA は,次回のメキシコシティーに持ち越しです.

ルーチーン的な CDMに関する COP/MOP 決定 などはありますが,大きな交渉の流れとしては,コペンハーゲン・アコードが take note される形となっただけでした.今回は,この結果をどう評価すればよいのか?を考えてみましょう.


マンデートと期待/希望とのギャップ

コペンハーゲン会議のマンデートは何だったのでしょうか? 実はこの肝心の点が,よく知られていないのではないかと思います.

「途上国も含んだ新しい法的拘束力のある枠組みを作ること」だったわけではありません(!) これは,先進国側の「期待もしくは希望」であったわけですし,メディアではあたかもそのための会議として報道されていましたが,このコラムや ブログ でも何度か強調しているように,2年前のバリ会議で決まったマンデート(バリ行動計画 Decision 1/CP.13)では,そこまで言及されているわけではなかったわけです.

マンデートは,AWG-KP では,京都議定書の下で,先進国の第2期目標を決定することです.AWG-LCA では,途上国を含んだグローバルでの新しい協力体制のあり方に関して,5つの要素に関して何らかの結論を出すと言うことです.バリ行動計画をいくら読んでみても,後者に関して,新議定書の採択までマンデートとして要求されているとは読めません (もちろんそれができればすばらしいことではありますが).

したがって,途上国から見れば,自分たちに関してマンデートになっていないところまでごり押しして,かつマンデートになっている(先進国の責任を規定する)京都議定書をなくしてしまおうとする先進国の動き は,「バリで決まったことと話が違う」として,どうしても受け入れられないものであったと言うことだったのでしょう.

> (先進国は,自分たちの新しい責任に関しては,新しい法的枠組みに組み入れるという点で,逃げているわけではないのですが,それが京都議定書自身を kill する動きとして途上国には捉えられたわけです)

表面的には,議長国であるデンマークの議事運営のまずさが目に付きましたが,その裏には,こういったところから来る先進国への根深い不信感がぬぐいきれなかった... ということかと思います.

言い換えると,途上国としてはそこまで用意ができていないのに,三歩先の要求を突きつけられ,それに反発したということでしょう.


途上国の意味のある参加とは?

途上国が「参加」しない枠組みは意味がない... という言われ方をすることがあります.これは途上国を対象とした(もしくは途上国も含んだ)法的拘束力のある枠組みに組み込まなければ意味がない... ということなのでしょう.しかしこれは本当でしょうか?

中国は,いま年率4%もの省エネを国内政策としてプレッジし,自主的に進めています (日本で 対GDP比で年率4%の省エネが継続した経験は 石油ショック時ですらありません).原単位向上が努力を表す指標として適切なら,かなり実効性と実行力のある国内プログラムであるわけです.

国際的に法的拘束力のある枠組みに加わることと,国内で着実に対策を実施してパフォーマンスを上げることでは,どちらが重視されるべきでしょうか? (ちなみに,法的拘束力のある枠組みに加わったとしても,国連の環境協定において,主権国家に対して罰則を科すことは現実的ではありません).

この議論は,日本の産業界の自主行動計画の歴史と かなり似通っています.京都会議の前に,政府からの課税や規制をおそれた産業界は,自ら行動計画と目標をプレッジし (原単位目標が多かったわけですね),それが,社会公約化,自主的な第三者検証の実施,政府プログラムへの組み込み,政府によるレビュー,政府による目標強化のプレッシャー,そしてその次にはおそらく cap-and-trade 規制への組み込み... ときているわけです.

自主行動の変遷

わたしは,自主的であっても,きちんと対策ができる仕組みを自分でつくれて実施していけるなら,(最初は) それで十分であると思っています.日本の産業界は 実際にそうしてきたわけです.規制されなければ実質的な対策をしないはず... なんて言ったら,日本の産業界が怒りますよね.

途上国はやっと自主目標をプレッジした段階です.国際社会においては,上記の「政府」に相当する存在はないわけで,いわば「同等の」他者からの要求で,上記の言い方なら いきなり政府プログラムに組み込んで,かつ政府によるレビューを押しつけられるとしたら,さすがに受け入れがたい... と,思うでしょう.

EUで行う締約国会議は,失敗したハーグ会議(COP 6)もそうでしたが,要求事項がかなり厳しくなる傾向にあります.いきなり階段の三段飛ばしをしろといわれたけど,それができず,半歩前進したにおわった... というのがコペンハーゲンの実態だったかと思います.


Copenhagenアコードをどう活かすか?

コペンハーゲン・アコード は,take note されるだけとなりましたが,手続き的には 条約7条4項(c)で担保され,実際にはほとんどの国が「自主的に」参加することとなるでしょう.主要25カ国に関しては,首脳自らがドラフティングを行ったと言うこともあり(前代未聞ですね),道義的社会的責任は非常に大きくなります.

重要なことは,コペンハーゲン・アコードは,批准の必要な (発効・実施までに時間がかかる) 新協定とは異なり,「すぐにでも実施」できる「フレキシブルな」仕組みであるということです.問題は,いかにして「即効性」と「実効性」を高めていくことができるか?という点に尽きるでしょう.

さいわい,資金の話をはじめ,技術メカニズム,2年ごとの国別通報システムの活用など,実効性を確保する道具立てはそれなりに組み込まれています.これらを「運用」の中でどう担保していけるか?がキーでしょう.たとえば,Expert Group on Technology Transfer のパフォーマンス・インディケータに関した文書 FCCC/SB/2009/04 なども,うまく国別通報に組み込むことによって,実効性を上げるにあたって活用できるでしょう.

とりあえず,この方向性で動き出すことが重要かと思います.むかし京都交渉の時,CDMに関して,最初に類似のアイデアが出てきたときには,途上国はこぞって反対していましたが,いまではみんな賛成し,いかに効率性を上げるか?に腐心しているわけですね.まずやってみること... でしょうか.

国際枠組みの議論は,なかなか一足飛びに 統一した法的に拘束力のある枠組みを作るのは難しいことがはっきりしました.まずは,バリのマンデートをきちんと果たし,二本立てでしょうが,途上国の方も,まずは期限を切ってそのための交渉プロセスを立ち上げることを目指す... ということでしょうか.米国に関しては,(京都議定書や途上国向けの仕組みとは)別立てかもしれませんが,現在の条約+コペンハーゲン・アコードにおいて実効性のある仕組みをつくり,京都の市場へのアクセスが可能となれば,実質的にはワークすると思います.来年(?) 連邦のcap-and-trade法案として一本化されれば,きちんとした法的な形とすることもできます.

Step-by-Stepで,しかし着実に実効性を高める工夫をしていきたいものです.

なお,日本を始め,2010年1月31日までに,先進各国は目標の数字を出してきます.日本の場合,25%がやや緩むかどうかは政治判断ですが,たとえ20%になったからといって(条件付き25%という形で出すようですが),これからやるべきことに大差はないでしょうから,その準備だけはしておくべきでしょうね.



[この文章は,ナットソースジャパンレター 2010年 1月号に寄稿したものに,少し変更を加えたものです]



Move to...

Go back to Home
Top page

Parent Directory
Older Article Newer Article