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Last updated: 2007.12.04

IPCC第4次評価報告書 統合報告書から考える

2007年は,気候変動問題に関して,いくつもトピックスがありました.ハイリゲンダムのG8サミットでは,温暖化問題が最大のテーマでもあり,それは洞爺湖に受け継がれます.2013年以降の枠組みに関して,国連ハイレベル会合なども通じて,各国の首脳レベルに,温暖化問題に関してまさにいま世の中が動こうとしていることがインプットされました.バリの会議でどのような合意が得られるか,興味深いところです(個人的には,先進国次期京都目標のマイルストーンを2009年末に設定し,途上国向けの枠組み交渉開始に合意できれば大成功と思っています).

ノーベル平和賞を獲得したアル・ゴア氏の「不都合な真実」は,映画としても一般市民の大きな関心を集めました.同じくノーベル平和賞を得たIPCCは,第4次評価報告書をリリースしました.ここでは,IPCC第4次評価報告書の統合報告書をみながら,すこし温暖化問題を考えてみましょう.

IPCCは「政府側の」機関であり,各国政府の数度にわたるレビューを経た評価報告書が5, 6年ごとにリリースされます.その時点における最新の「政策判断にあたって依って立つべき」科学的・包括的知見を提供するわけです.

「包括的」という視点は重要です.たとえば京都議定書の目標水準が厳しすぎるかどうか?などの議論がなされるケースを考えてみましょう.日本が他の国より厳しい目標を受け入れてしまったから京都議定書自身に問題あり,というような低次元の話はここでは無視します.たとえば2013年以降の全体目標水準の議論には,2つの視点があります.

ひとつは,「できるかどうか?」という視点からの議論です.たとえばEUの主張している2020年に1990年比20%から30%削減というのは,現実的ではない(からもっと緩くすべき)という主張ですね.

もうひとつは,温暖化や気候変動の将来的な影響を考えると,たとえば2度以下に上昇幅を抑える必要があり,そのためには最低でもこの程度に排出量を抑えなければならない,というような主張です.

この2つの主張は,視点がまったく異なるわけです.そのままでは,お互いに相容れる視点ではなく,いつまでたっても平行線です.これらを総合的に判断するためには,GHG排出抑制に要する困難さ(コスト)と,温暖化によるインパクト(これは別種のコストです)を,ひとつの座標軸の上で,評価する必要があるわけです.

問題は,それを包括的に評価する仕組みが世の中に存在しないことなのですね.IPCC自体も,まだこれらは個別に評価され,それを扱うべき統合報告書においてすら,定量評価には踏み込んでいません.

研究者の視点からは,コンセンサスの得られにくい仮定をいくつも設定しないと,そのような評価が難しいのも事実です.将来世代の価値の「割引」の方法,途上国と先進国の人の生命の価値評価方法等々,自然科学的難しさ以外に,社会的難しさがそこには存在します.

ですが,そこにあえて踏み込む勇気が,研究者やIPCCには求められているのではないか,という気がしています.評価方法だけではありません.そのような情報が(不確実性や評価方法の差異の定量的評価を含めて)得られた場合,それをどのように国際的な意思決定システムにつなげるか?という点も,重要な課題です.政策担当者側からも,そのような「ニーズ」を,IPCCにリクエストすべきでしょう.

統合報告書には,

Responding to climate change involves an iterative risk management process that includes both adaptation and mitigation and takes into account climate change damages, co-benefits, sustainability, equity, and attitudes to risk.

とはありますが,第3次評価報告書からの進展はあまりみられないようです.

一方で,各種不確実性があるなかで,かなり明確に断言できることもあります.この点を第3次,第4次評価報告書が明確にしてきたことは重要でしょう.

たとえば統合報告書の政策担当者向けサマリーに,

Mitigation efforts and investments over the next two to three decades will have a large impact on opportunities to achieve lower stabilisation levels. Delayed emission reductions significantly constrain the opportunities to achieve lower stabilisation levels and increase the risk of more severe climate change impacts.

という結論が書いてあります.これは本当はわざわざIPCCが述べるまでもない非常に単純なことなのです.

経済モデルのグラフなどをみてすぐにわかることは,最初の「角度」設定が,長期にわたっては非常に大きな効果として現れてくるという事実です.温暖化問題は本当は年間排出量(フロー)の問題ではなく,それが大気中に蓄積されていくストックの問題ですので,とくに最初の方向性は積分値に与える影響が大きいという意味で非常に重要です.長期的なインフラ形成をともなうものなどは,いちど方向性が固まってしまうと,その方向で「凍って」しまうということも挙げられます.

というように「あたりまえ」なことであるのですが,でも,IPCCが明示することで,その影響は大きなものとなります.あたりまえのことを再認識する,ということも,新しいことを発見していくことと同じくらい重要なのですね.2050年にGHG排出量を半減しようとしている政策担当者にとって,このメッセージの持つ意味は大きいでしょう.

There is high agreement and much evidence that all stabilisation levels assessed can be achieved by deployment of a portfolio of technologies that are either currently available or expected to be commercialised in coming decades, assuming appropriate and effective incentives are in place for their development, acquisition, deployment and diffusion and addressing related barriers.

この意味するところも大きいでしょう.おそらく多くの日本人の常識とは異なってくると思います.すでにある技術のdiffusionのため,いかにしてインセンティブを設けバリアを取り除けるか?が重要であるという点ですね.

みなさんも,新聞情報だけでなく,IPCCの統合報告書を実際に読んで,そしてご自分でその意味するところを「考えて」みてください.

[この文章は,ナットソースジャパンレター 2007年 12月号に寄稿したものに,少し変更を加えたものです]



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