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Last updated: 2005.10.29 

プロジェクトとベースラインシナリオの関係づけ

CDMにおいて,ベースラインシナリオとは,「そのプロジェクトがCDMとならなかった場合に起こっていたであろうシナリオ」ですね.そして,そのベースラインシナリオの排出量BEと,プロジェクトシナリオの排出量PEの差が,排出削減量 ER=BE?PE となるわけです(リーケージはないとしました).

ときどき誤解されるのですが,ベースラインシナリオもプロジェクトシナリオも,PDD作成時点では「将来の」シナリオです.たとえベースラインシナリオが「現状維持シナリオ」となったとしても,それはかわりません(現状維持シナリオとは,ふつうは特に新しいことがなされないシナリオを表しますが,その排出量が「過去の」排出量と等しいとはかぎりません).

よく言われることですが,ベースラインシナリオは「実現しない」シナリオです.実際はプロジェクトが実現化するわけですから,一種のパラレルワールドであるベースラインシナリオがどのようなものであるかは,けっして見ることはできません.言い換えると,ベースラインシナリオがどのようなものであるか同定(=主張)するということは,『いかにもっともらしい理屈をつけることができるか?』という一点にかかっています.そしてその「もっともらしい理屈の付け方」が,ベースライン方法論のキーとなるわけです.

今回は,このベースラインシナリオの同定そのものではなく,同定できたあとの作業として,そのシナリオの排出量(ベースライン排出量BE)をいかに表すか?という点について考えてみましょう.

よく考えると,ベースラインシナリオがどのようなシナリオであるかわかったとしても,その排出量を表現することは単純ではありません.ベースラインシナリオとは「実現し得ない」シナリオですので,それをどのように表現するか,言い換えるとどのようにモニタリングするか?ということを考える必要があります.

実際,われわれの世界はプロジェクトシナリオの世界であるわけですから,たとえばベースラインシナリオにおける燃料消費量というパラメタは,実測が原理的に不可能であるわけです.どうすればいいのでしょうか?

それには,この世の世界であるプロジェクトシナリオと,あの世の世界であるベースラインシナリオを「関係づける」ことが必要となります.これが比較的簡単なケースは,ベースライン方法論開発が容易となります.

たとえば,石炭から天然ガスへの燃料転換プロジェクトを考えてみましょう.ベースラインシナリオが「現状維持(石炭を使い続ける)」となったとしましょう.その場合,

「ベースライン排出量」=「石炭の消費量」×「石炭のCO2排出係数」

となりますね.

排出係数の方はわかるとしても,問題は「石炭の消費量」です.我々の知りうるのは,プロジェクトを実施した世界ですので,もはや石炭は消費されず,代わりに天然ガスが消費されるわけです.「天然ガス消費量」でしたら実測できるわけですが,「石炭消費量」は直接は実測不可能なわけです.

ここまでくると,それでは「天然ガスではなく石炭が使われたと仮定した場合の石炭消費量を求めればいい」ということがわかるでしょう.それでは,天然ガスの代わりに石炭が使われた場合,どれだけの量の石炭が消費されるのでしょうか?

この場合の考え方は,「実際に有効に使われる(必要とされる)熱エネルギーは,天然ガスの場合でも石炭の場合でも共通」というものでしょうね(言い換えると,両シナリオで,「使用燃料の含有熱量」×「熱効率」が等しいと言うことですね).

これが,まさに「ベースラインシナリオをプロジェクトシナリオに関係づける」ことを表しています.あの世のベースラインシナリオの世界と,この世のプロジェクトシナリオの世界を関係づけたことになります.この関係式を用いて,ベースライン排出量を構成するパラメタ(この場合は石炭消費量)を,プロジェクトシナリオのパラメタ(この場合は天然ガス消費量や熱効率)で表現することが可能となったわけです.

このような関係式を特別に意識せずに設定する場合もあるでしょうが,けっしてアプリオリに設定できるほど単純ではありません.上記のケースでは,「有効熱需要が共通」という「仮定」はもっともらしいと思われますが,そうでないケースもあるからです.

たとえば,プロジェクトを実施することによって,隠れていた(実現していなかった)需要が顕在化するような場合があります.混雑している道路を2倍に拡げるプロジェクトはどうでしょう?プロジェクトの結果,燃費向上効果は見込まれるかもしれませんが,混雑していたため電車を使っていた人が自動車を使うようになるケースもいかにもありそうです.このような,「ベースラインとプロジェクトの両シナリオで『共通』のもの」が見つかりにくい場合,方法論開発はかなり難しいものとならざるをえないでしょう.

今回は,ベースライン方法論を「理論的に整理する」にあたってのひとつの視点です.簡単な例では意識せずに済んでしまうことかもしれませんが,「ベースラインシナリオとプロジェクトシナリオをいかに関係づけるか?」の重要性を意識することで,方法論作成のスキルは一歩上達することでしょう.

[この文章は,ナットソースジャパンレター 2005年9月号に寄稿したものに,少し変更を加えたものです]



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