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Last updated: 2005.10.29
排出権関連情報として,燃料価格に関するスパークスプレッドという指標があります.一般に,複数の燃料からの選択が可能であるのは電力会社ですが,彼らがどの燃料を選択することがもっとも合理的か?という点を判断する上でもちいる指標と言えるでしょう.すなわち,燃料種別間の,発電電力量MWhあたり何ドル(ユーロ)の発電コスト差が存在するか?という指標であるわけですね.
わたしは,京都会議直後の1998年,米国SO2排出権取引の調査を行った際,低硫黄炭の価格と高硫黄炭の価格差がちょうどSO2排出権の価格になっているのを知り,「市場」がまさに機能している!と感激したものです.当時,石炭火力において低硫黄炭を焚く場合はSO2規制を遵守できますが,高硫黄炭の場合はそうでないという状態でした.したがって,実際にSO2排出権付きで高硫黄炭が販売されたりしました.そして,上記のように高硫黄炭と低硫黄炭のSO2排出量の差が,SO2排出権価格になるというように市場が反応したわけです.すばらしいですね.
この例は,SO2排出権のケースですが,CO2に関してはどうでしょうか?この場合,石炭と天然ガスの間の燃料選択が問題となるわけですね.EU ETSにおける状況をみてみましょう.Argus European Emissions Marketsによりますと,以下の傾向がみてとれます:
これをどう分析するかはむつかしいかもしれません.単にCO2排出権価格が(排出権供給がタイトになるという予想の下で)上昇したためそう見えるだけ...ということなのかもしれません.関係があるとしても,CO2排出権の市場は,電力会社の火力発電所だけではないので単純ではないはずです.
関連があるとした場合でも,前述の高硫黄炭と低硫黄炭のように石炭間の場合と比べ,石炭と天然ガスは個別に(あまり関連性がなく)価格変動してきた傾向があります.言い換えると
が,独立でなく,たとえばCO2排出権価格が「排出権の需給関係」よりも「天然ガスと石炭の価格決定要因」に大きく支配される,という可能性もあるわけです.
いずれにせよ,これらの3つの価格は,何らかの「相互作用」を行うことは間違いないでしょう.上記の今年初めからのスパークスプレッドの推移は,当初,5ユーロ程度と比較的無関係であった状態が,いまではプラスマイナス1ユーロ程度と,かなり「関係」が市場に理解されてきた,という現れのような気もします.
排出権市場の価格動向を読むには,これらの(強弱を含めた=なにが支配的になるか?という)「関係」を理解する必要がありそうです.市場の流動性とともに,それらは明確になってくると期待されます.
もうひとつ,興味があるのは,これらの排出権価格が,燃料選択判断だけでなく,比較的長期の「投資判断」にどのような影響を与えるだろうか?という点です.一般に想像されるのは,長期的な投資に影響与えるのは,
でしょう.第2次石油危機時に省エネ投資が進んだのは,単にバレル40ドルにあがった原油価格ではなく,このままでは100ドルまであがるかもしれない...という予想(あるいはリスク判断)だったと言えるでしょうから.
[この文章は,ナットソースジャパンレター 2005年7月号に寄稿したものに,少し変更を加えたものです]