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Last updated: 2002.09.01
マラケシュでの COP 7の場外(サイドイベント)での最大の話題は,なんといっても発表されたばかりの EU ワイド排出権取引制度構想 [COM(2001)581] でした. 欧州委員会環境総局の担当官である Peter Vis と, 彼の上司 Jos Delbeke は,入れ替わり立ち替わり,さまざまなサイドイベントで Draft Directive の説明を行いました.
以前のドラフト段階から,何度か彼らの発表を聞いていた個人的感想としては, 彼らはかなり真摯に米国 SO2 制度の経験を取り入れ (特にマンダトリーで厳格な遵守枠組み), できるだけ市場を機能させようとしていると感じました.これは,先駆的な英国制度が かなり複雑となってしまったことへの懸念なども起因しているかもしれません.
まず,環境規制という面から観てみると,EU という多数の国を含んだ制度という意味で, かなり画期的なものとなっています.上記のマンダトリーという性格は,環境規制という意味では好ましく, かつ EU ワイドという意味で域内競争力の問題は小さくなります.対象部門は限定されているとはいえ, EU 域内 CO2 排出量の 45% という大きなカバレージを持ちます (英国制度で導入できなかった電力部門も含んでいます).
その一方で,いくつか課題も残されています.
まず,企業側の懸念としては,やはりその「マンダトリー」な性格でしょう. 英国制度を「自主的」と分類するのが適切かどうかはわかりませんが(税金の軽減措置とリンクしています), 特にドイツなどのいわば保守的な対策を重視する国の反発がみられます.その一方で, 英国では英国独自制度との整合性の点から懸念が出されています.
環境規制という側面から観た課題としては,いくつか不透明な点が残されています. たとえば,他の GHGs 政策との整合性,(各国の政策主権に配慮を行っているための)各国の排出可能量, 企業の競争力の問題へどのような配慮を行うか,grandfathering 割当の方法,CDM/JI とのリンケージ, 中小規模施設への拡大,拡大 EU 諸国などの扱い,早期行動の扱い,英国制度などとの整合性,などです. これらは,Draft Directive がまだ最終段階となっていないということでもあり,今後のテーマとも言えるでしょう.
特に,企業競争力に関わる割当方法,EU 全体の温暖化政策の中の位置づけ,CO2 以外の GHGs の問題などは,議論を呼ぶ点ですので,できるだけ早い明確化を行わないと, 制度開始時期に影響を与える可能性があります.議定書遵守に向かってのスコープ, すなわち長期的かつ包括的な戦略とタイムテーブル(たとえばいつ中小規模施設にまで拡げるか)を, はっきりさせることが重要でしょう.特に,いまできることとしては,インセンティブ付けを行う上でも CDM/JI との統合化を明確化することかと思われます.
この Draft Directive は,欧州議会など多くの場で議論されています. このままでは,当初目標の 2005年導入は,やや遅れる可能性もあります.
もうひとつ,日本との関連という点で考えてみますと,少なくとも欧州委員会は, 他の議定書締約国の同種の国内制度と「リンク」することも視野に入れています. イメージ的には拡大 EU 諸国であるわけですが,たとえば日本の制度と繋げることも歓迎する意向はあるようです.
2005年というタイミングは,日本の制度の抜本的見直しがなされる時期でもあり, 同時につながった大きな排出権市場を設立することができれば(また CDM とのリンクができれば), これは(ロシアは入っていませんが)ほぼ京都議定書のフレームワークそのものということもできるでしょう. その意味で,市場を繋げること意図しつつ,どのような点に留意して国内制度設計をすべきか, いまのうちから,検討しておく必要があります.日本は,15か国の政策を調和させる必要はないのですから, 本当は,もっと容易なはずです.
最後に,もし欧州(+東欧)と日本が市場を共有したら,これは米国(次期政権?)にとっても, 大きなプレッシャーになるでしょう.米国人にとって,「ビジネス機会喪失」という言葉ほどいやなものはありませんから…
[この文章は,ナットソースジャパンレター 2002年7月号に寄稿したものに,少し変更を加えたものです]