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Last updated: 2002.09.01  

目標設定のあり方

バレンタインデーに米国ブッシュ大統領は,(米国にとっての)京都議定書の代替案たる新イニシアティブを 提示しました.その際,彼は「GHGs 排出量の GDP 原単位の改善率」を目標値の指標に選びました. このような指標は,いままでも主として発展途上国の目標設定のコンテクストで議論されてきたり, わたし自身も下のメニューアプローチと共に,京都の前に提案したりしてきました. 今回は,このような目標設定をどんな考え方ですればよいか?という点を考えて見ましょう. もちろん,この議論は,将来の Annex I 国の第 2 期目標,途上国の(自主)目標,米国参加時の目標, そして国内制度における目標などの参考となるでしょう.

まず,どのような「指標」を目標値として設定できるか,という点では,実にさまざまな考え方があります. もちろん,京都議定書のような規制対象の各主体の「(ネット)排出の絶対量」はそのひとつです. それから,「原単位 (intensity)」としての目標設定もあります.

原単位といってもいろいろな種類があり,「アウトプット一単位あたり」という指標が要因分析などでよく出てきます. このアウトプットが人口全体なら一人あたり,経済全体なら GDP 一単位あたり, 産業部門全体なら IIP(鉱工業生産指数)一単位,個々の業界ならたとえば「ラガー 1 リットルあたり」 なんていうのもあります(ちなみにそのときはスタウトならラガーの 1.4 倍という具合に「換算率」をかけたりします. 英国のビール業界の例です).業務部門なら「単位床面積あたり」,家庭部門なら「一家庭あたり」, 運輸なら「一人 1 km あたり(旅客)」あるいは「1トン 1 kmあたり(貨物)」などがよく用いられますね. つまるところ,どういうものを対象に考えることが適切か?という問題なのです.

目標値という場合には,原単位の「絶対値(水準)」の場合以外の方法として, 原単位の「改善率」をとる場合も興味深く,実際ブッシュ大統領は,これを選択したわけです (ちなみにその目標は GDP 原単位の改善率で 10 年間平均で年率 2% です). 日本でも,省エネ法の下で第一種指定工場は,原単位を年率 1% 向上する努力目標がありますね. 注意すべきなのは,同じ原単位でも,その絶対値(水準)と改善率とはまったく異なった意味を持つということです. 一人あたりという原単位でも同じことです.

ひとつ注意しておくべきことは,一定の GDP 原単位改善目標は,成長し続けているときは魅力的ですが, 不況に陥った場合,かなり達成が厳しい目標となり,投機的な性格を持ちます. 一方で排出絶対量目標の場合は,成長している時は他から排出権を購入する余裕がありますが, 不況になるとあまり買わなくて済む(場合によっては販売できる)という意味で,リスクヘッジ的色彩が強い 目標であることは理解しておくべきでしょう.

GDP 原単位改善率に近い概念として「GDP 弾性値」への目標設定というのも可能でしょう. たとえば GDP 成長率の 1/2 の CO2 排出量増加率といった形ですね (原単位改善率では GDP 成長率マイナス 2% といった目標の形態です).

加えて,「目標期間」という概念も重要です.絶対量あるいは(原単位の)絶対水準目標の場合は, 基準年をいつに選ぶか?ということに相当します.面白い方法としては 1990−2000年の間の最大排出量の年, と選ぶことなどもできます.「改善率」目標の場合,どの期間の平均年間改善率か?という点ですね. わたしは京都の前,目標値として 1973年からの平均 GDP 原単位改善率はどうか?などと主張していたこともありました.

その他,いろいろな指標およびその改善率を考えることもできます.ぜひ,いろいろ考えてみてください.ただし,「リーズナブル」と皆が認めるものでなければ,目標設定には使えません.これが大きな問題です.京都議定書の目標が,結局は交渉による各国個別数字の設定になってしまった経緯は,どの国もが納得できるような共通の指標を考え出すことができなかったからです.

ここで,この問題を解決する方法をひとつお示ししましょう.みなさんの自主性を活かす方法です. すなわち,いくつかのオプションを自主申告もしくは事務局が提示し,規制対象者がその中から自主的に, 自分にもっとも合った方法を選択するのです.たくさん選択肢があれば,自分の気に入る考え方が ひとつくらいはあるでしょう.その主体はそれを選択します.もちろん,たとえば GDP 原単位といっても, その数字が重要なので,(自分で好きな指標の種類を選択できるというのであれば) 個々の指標においてはそれなりに厳しい「数字」を目標値として選ぶべきかもしれません. いずれにせよ,自分で選ぶ(あるいは申告する)わけですから,文句のつけようがないはずです.

ただ,その場合の懸念は,結局そうして自主的に選んだ数字を排出絶対量の形で(規制主体で)足し合わせると, 環境的に望ましい水準に収まらないかもしれないということです.この懸念に対処するには,前もって, 全部で足しあわした総排出可能量に合意しておくのです.そして,上の方法で各主体の目標値を暫定的に決めます. もし,それを足し合わせたら,前もって決めた数字を上回っていたら,それぞれの主体の目標を, 比例的にシュリンクさせればいいのです(たとえば一律 5% 圧縮).

これは,環境面で重要な「総量」部分と,公平性にかかわる「相対的負荷分担」を分離する方法で, これからの国際および国内的な目標設定の議論に有用かと思うのですが,いかがでしょうか?

[この文章は,ナットソースジャパンレター 2002年4月号に寄稿したものに,少し変更を加えたものです]



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