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Last updated: 2003.08.13  

モデルや見通しの結果の読み方

世の中には,「予想」,「推計」,「見通し」,「シナリオ」など,将来を推計したものがあふれています. 英語でも forecast, prediction, projection, profile, outlook, scenario, … など さまざまな名前で呼ばれます. これらは 本来はある程度「名前」によって分類されるべきものでしょうが,実際は,名前はあまりアテにはなりません. ここでは エネルギーモデルを少し考えてみましょう.

各国の数値目標遵守可能性や排出権価格などの推計に,エネルギーモデルが重要なツールとなることは確かでしょう. しかしながら,それをどう使うか?その結果をどう読むか?という点を知らなければ,的確なインプリケーションを 得ることができないばかりか,むしろ悪い(不的確な)情報に踊る羽目になります. 単に IEA の予想がこうだから… などというのでは,実際のところ何もわかりません. 単純比較はかなり危険です.

明らかなことですが,モデルは「モデル」であって,社会そのものではありません. むしろ,考えている問題の目的に合うように「社会をモデル化(いわば単純化)」し, 複雑な社会状況を分かりやすくするためのものです. 「何でもできる」モデルは,きわめて複雑なものとなり,その内部メカニズムが ブラックボックス化してしまいます. その意味で,何のためにモデルを使うのか,わからなくなってしまうおそれがあるわけです.

実は,複雑なモデルも,その骨格となる部分はきわめてシンプルで,マクロ的な結果, たとえば 20 年後の CO2 排出量などは,基礎となる外生パラメータを数個用いて, 手計算でおおよそ計算できるものなのです.いわゆる茅恒等式は,これを要因分析という形で示したものですね.

モデルの user という立場からみた場合,必要なのは,そのモデルが「どのような性格」をもったモデルか?と言う点です. もちろん,モデルがどのような目的で作成されたものか?そのプロジェクションの考え方や前提条件は?などという点の チェックが必要であることは間違いありません.

加えて,面白い方法として,過去のその見通しなどが,どのような数値を出してきたか,をチェックする方法があります. たとえば,日本の資源エネルギー庁と総合資源エネルギー調査会が 2〜4 年程度ごとに出している「長期エネルギー需給見通し」は, 名前は「見通し」ですが,「METI が将来望ましいと思う状況」を,すなわち 日本のエネルギー政策(の結果)そのものを 数値化した「政策の青写真」というべき性格のものです(すなわち,「予測」とはまったく性格を異にします. 誤解を生む名前は変えた方がいいでしょうね).この「長期見通し」が,過去にどのような「見通し」を行ってきたか? という点は,エネ研の藤目さんが TPES(一次エネルギー総供給)に関して,興味深いグラフをよく作成されています.

長期見通し

これを見て頂けると,日本が発展途上国の時代から,どのように,エネルギー政策を考えてきたか?が よくわかります. 1967 年頃は接線方向に,1970 年の見通しなんて 恐ろしい伸びを考えていたということですね. それが石油危機後,発展途上国時代の感覚が抜けないのか,現実に辿った線より 上方に上方に見通されています (こうなるべしと MITIが 当時考えていたということです). 一方で,1986 年の 逆オイルショック(原油価格の暴落)以降,現在に至るまで,その逆に, 下方へ下方へとなっています.思ったほど省エネが進まなかったことを表しているとも言えるでしょう (特にバブル景気がはじけてからは 経済成長は想定よりかなり低かったのにもかかわらず…). 直近の 2001 年の見通しでは,ほとんど水平に想定されていますね(もっといろいろ分析できます.ぜひやってみてください).

もちろん,このような分析だけで,その見通しの性格のすべてを語ることはできません. ただ,「見通しの数字をどう読むべきか?」という点に関して,ひとつの簡単なツールとなることは確かでしょう.

実際,さらに詳細に見るには,茅恒等式の要因分析などで表される 「GDP」,「GDP/Energy」 や 「CO2/Energy」などの 各要因の数値を,過去の見通しの数値と実績値とを比較してみることなども,分析をする上で非常に有用です (わたしはよく使います).

もちろん,異なったモデルがどのような値を出しているかをチェックすることも有用でしょう. ただ,その「平均」に 意味があるかどうかは疑問ですが…

せひ,見通しの結果を「正しく」理解するために,いろいろ工夫してみてください. 困ったことに,見通しの数字を提供する側が,それに関する有用な情報を十分に提供することは きわめて希ですから.

[この文章は,ナットソースジャパンレター 2003年 1月号に寄稿したものに,少し変更を加えたものです]



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